黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)
[08]道場2
「智は怒って、お友達に酷いことを言ったり、叩いたりしたことはあるか?」
「…友達にはないよ」
お父さんになら、あるけど…
昨日の夜、お母さんに怒られたことを思い出した。
「友達にはということは、お兄ちゃんとかならあるのか?」
「…うん。ばかって言っちゃった…」
お兄ちゃんじゃなくて、お父さんだけど…
ま、いいや。
「そうか。その時、叩いたりはしなかったのか?」
「…うん」
「智、そのときより酷いことを言われたり、自分が叩かれそうになったら、どうする?」
おじいちゃんは、僕の目を覗き込みながら訊いた。
あれよりももっと酷いことをされたら…?
たとえば、本当にあの子を保健所に連れて行かれたら…?
僕は…
お父さんでも、叩くだろう。
もしかしたら、蹴っちゃうかも知れない…
「…僕…その人のこと…叩いちゃうかもしれない」
「それが、空手技だったらどうなる?」
お父さんは、空手をやっていたから大丈夫だと思う…。
お兄ちゃんも空手をしているから大丈夫。
でも、お母さんは?
お母さんは空手をやったことなんてない。
「………」
「わからないか?」
「…怪我をすると思う…」
まだ、僕は空手の技を人にやったことはない。
でも、なんとなくわかる。
瓦や木の板を割ったりできる力を、人に使えば…
怪我をする。
僕が怒って、すぐに誰かを叩けば…それが空手の技だったら…
僕は、その人に怪我をさせてしまう…
「そうだ。怪我をするかもしれない。骨が折れることもある」
「…うん」
「空手の技を簡単に使っちゃいけない。怪我をするか、させるかするからな」
「うん。だから、正座で我慢の勉強をするんだね」
おじいちゃんは、少しだけ笑った。
「セイシンタンレンが、空手では大事だからな」
笑って、難しいことを言った。
僕には、何がなんだかわからなかった。
わかったのは、正座でじっと座ることも大事だと言うこと。
「おじいちゃん、僕…正座もちゃんとするから、空手を続けてもいい?」
「ああ、構わん。ほれ、お前も掃除してこい」
ポンと背中を押された。
道場には、僕と同じくらいの子たちが集まってきて、掃除の準備を始めていた。
僕も、その輪の中に入って、雑巾がけを始めた。
おじいちゃんは…、僕らを見ていた。
いつものように、厳しい目で…
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