第四章


[08]試練


ー試練の間ー

「爽貴様の応急処置などの術には長けているが、攻撃とならば弱い。」

「あの〜、応急処置だけではダメなのですか?」

「…久しぶりに爽貴様の弱音が…。
今後どのような敵がくるやもしれません。
そしてこれからは龍緋殿を遥かに勝るものも出てくる。今はその為の修行だ。」

爽貴様は唇をキュッと噛むと俯いた。

「…わかりました。」

彰廉先生は頷くと腕を組む。

「では一度私の見本を見てなさい。
両手の平を敵に向ける、頭の中には炎を思い浮かべ、そのまま両手の平に持って来るような感覚でグッと溜め込む。」

その時、彰廉先生の掌には大きな炎が玉のように渦巻いてきた。

「この時にしっかり掌に集中、そして相手に向かって射る。」

彰廉先生が目を見開いた時、掌からの炎が目の前にある鉛で作った人形を目掛けて火柱をたてた。

人間で言う心臓部分に火柱が貫通させたのだった。

彰廉先生からの炎は一変に静まり帰ったほんの一瞬の出来事だった。



「…すごい。」

「これはほんの初段階にすぎん。
では爽貴様、やってみなされ。」

「…はい」

「まず両掌をあの人形に向ける。
そして頭の中には炎を思い浮かべ。」

(炎…こんな感じかしら…)

「その炎をそのまま両手の平に持って来るような感覚でグッと溜め込む。」

ボウ!

「そこはもっと集中じゃぞ!」

(…う…腕が熱い)

「そして射る!」

爽貴様が人形を見た時だった。

ヒュッ…ドォォォン!

炎は柱どころか、玉のまま飛んで行った。
「…あれ?」

「はぁ、しょうがないのぅ…。」

「爽貴!」

「龍緋?!」

龍緋殿は入口に立っていた。

「凄い音が聞こえたが大丈夫か?」

「うん、龍緋修行は?」

「今休憩…ぐはぁ…くそ!」

「ろ…龍緋?!」

胸には槍が突き刺さっていた。

「くくくッ…」

龍緋殿の後ろには、長身の黒い眼帯をした男がたっていた。

「誰?!」

「爽貴様、あれが『k』こと『槹絽(コウリョ)』じゃ。」

爽貴様は書斎での話がよぎった。

「あれが…どうしてここに…。」

「う〜ん、ここの国王もこれ…今は龍緋といっているのか?

大して強くはなかったな。」

「お父様は…」

「くっくっく…コロシテヤッタヨ。」

「なっ…」

爽貴様は失望感に陥った。
「爽貴様、今は奴と戦闘せねば掌国は滅びますぞ!
さきほどの炎の術を使うのじゃ!」

「…でも」

「失敗しても構わん、今は敵は奴一人じゃ!
奴はあれでも人間、心臓一貫きでやつもさすがに死による。」

「何を話してる?
早く片付けて帰りたいのだが。」

「大丈夫だ…うっ」

龍緋殿は起き上がろうと膝に力を入れるが再びくずれる。

「龍緋!!…わかりました、やってみます。」

彰廉殿は笑みを浮かべた。

「それこそ劉の者。
先に言ったことは覚えとるな?」

「はい。」

爽貴様は両手を槹絽に向け炎を出す。

「殺る気になったか、まぁ小娘一人だが観てやろう。
かかかってこい。」

(そして…。)

「射るッ!」

爽貴様は未だかつてない殺気を放った。

すると同時に手からは黒い炎が一気に槹絽へと真っ直ぐに向かっていき、こめかみを貫いた。

「ぐぁぁぁ…ふ…ははははは!
良くやった。」

「ッ?!まだ生きてるの?」

その言葉を最後に槹絽は姿を消したと同時に龍緋殿も姿を消した。

「し…彰廉先生!!」

爽貴様と裏腹に彰廉先生はにこやかに近づいてきた。

「爽貴様、良くやったの。
あの炎は闇の力…倒す事ばかりにどす黒い気持ちのまま解放してしまったのじゃ。
どちらにしろ、切羽詰まっていても大量の炎出せたのだから、多少は身についているだろう。」

「でも先生、お父様と龍緋がぁ!」

「そんなに奴は大事なのか、奴は今『鍛錬のの間』で修行中じゃよ。
今のは爽貴様の『劉』の力を引き出す為の『幻術』だったのでな。
酷な事をしてすまぬ。
ただ、時間がないのでな。」

腰が抜けた爽貴様を余所に彰廉先生は満面の笑みを浮かべた。

「まだ修行は初段階、へこたれるのはまだ早いぞ!」

彰廉先生の豪快な笑顔に落ち着いたのか、爽貴様もつられて笑った。

「はっはい!」

こうして二人は日の出まで修行が続いた。

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