第四章


[05]別館


ー爽貴様の部屋ー

爽貴様は他国からの王子の手紙を整理していた。

何故か龍緋殿は椅子に座りお茶をしている。
それが気になったのか、龍緋殿に目をやった。

「…龍緋は暇なの?」

口のお茶を飲み込むと、笑顔で答えた

「何たって爽貴の付き人だからね。」

「あっそう…。
所で聞きたい事があるんだけど。」

「何だ?」

爽貴様は机の前にある椅子に座り龍緋殿に向き合った。

「この間に龍緋が妙神山のお話をしたとき"K"という人物がいたわね?」

「ああ、長身の眼帯男だ。」

「その男は龍緋の事を『これ』となずけたわよね?」

「ああ、それがどうした?」

「掌国では、名のない物には『これ』と呼んでいるの。
もしかしたらその人は掌国の者じゃないかしら?」

龍緋殿は持っている湯呑みを起き腕を組んだ。

「…なるほど、そうかもしれない。
確か俺が国王に捕まった時も『これ』と呼んでいたからな。」

彼は少し考え込んだあと、口を開いた。

「…もしかしたらあの術師長なら何か知っているかもしれないなぁ。
確か別館五階が書斎だったか?」

「そっか!何か情報もあるかもしれない!早速行ってみましょう!!」

「ああ。」

こうして二人は部屋を出た。

十二階建ての別館の塔は、大浴場の左隣にあり、各持ち場の『長』や『班長』達の書斎である。
最上階では兵長一人と兵六人が備えられており、三百六十度見渡す限り掌国の端っこまで確認が出来、尚且つ国外からの侵入がすぐにでも分かるように備えられている。
ー別館五階・魔術師長の書斎ー

コンコンコンコン

「はい。」

中からは男性の声が聞こえた。

「爽貴と龍緋です。」

「入りなされ。」

「失礼します。」

大きなドアを龍緋殿が開くと始めに目にしたのは山積みの本だった。

「すまん、ちょっと行方不明者を荒って見ようと思って持ってきて貰ったんだが、まさかこんなに…。」

魔術師長の彰廉(ショウレン)殿が参った様に頭をかいていた。

「まぁ、その椅子に座りなされ、今茶をいれてくる。」

そういい彰廉先生はお茶を入れに立った。
龍緋は爽貴の隣に座った。

「先生の入れたお茶は格別よ。」

「それは楽しみだな。」
少しして彰廉先生はお茶三つをお盆に乗せて入ってきた。

「龍緋は初めてだったなぁ。
お気に召すかわからんが…。」

「いただきます。」

少し沈黙が続いたあと、二人は湯呑みを置いた。

「やっぱりおいしいですね。」

「とてもおいしいです。」

「そうか、それは良かった。
良かったらまた飲みにきなされ。」

「はい、是非。」

「ところで、何の用件だったのかな?」

爽貴様はすっかり忘れていたのか、はっとした様子をみせた。

「そうだった!
この城に長い先生に実はお聞きしたい事がありまして。」

続いて龍緋殿が話を始めた。

「今までの行方不明者を教えて貰いたいんです。」

さっきまで微笑んでいたのが嘘のような表情になっていた。

「…ならん。」

「何故ですか?」

「お前達にはまだ早過ぎる。
ましてや、術もまだ全てを教えておらんのに…。」

「しかし、その行方不明者が元掌国の人間が他国を狙っているんです!」

「…解っておる。
しかし、ワシが生まれてこの方、行方不明者は五万とみている。
おぬしらが書類を見たとて…。」

「その五万といる中から絞る事ができるといっても…?」
「何ッ!?」

しばらく沈黙は続いた。

彰廉先生は何か考えている様子だが、龍緋殿の表情は崩れなかった。

「…はぁ、仕方ない…無鉄砲にここへやって来たと思っておったが、何かあってのことであったか…。
構わん、じゃが説明はしてもらう。」

「はい。
私達が書類を見つけても中身はわかりません。
ですから、彰廉先生に教えてもらいたいのです。
ただ、条件が…。」

「な…何だ。」

「私の過去には触れないで貰いたい。
これは私情でではなく、毘禅様直々の指示。
今からの説明はその指示の際どいお話になります。」

彰廉先生が「わかった」と頷くと話を始めた。

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