第二章


[05]入浴


兵はこれを担ぎ無事大浴場の浴室まで送り届けた。

「後はこの四姉妹に任せ、私は業務に戻ります。
寢姉妹、後は任せますね。
くれぐれも無礼のないように!」

『はいっ!』

兵は元来た道を戻って行った。

「私は外で待っているわね。」

するとこれは爽貴様の腕を掴んだ。

「…ここに…いたら良い…ケホ。」

爽貴様はたちまち顔だけでなく全身が真っ赤になった。

「な…何言ってるの!
貴方裸になるんだから女性がいたら恥ずかしいわぁ。」

これは頭を傾げた。

「ケホっ…そういうものなのか…なら前で待っていてくれ。」

「はい。」

丁度浴槽から陽気な声が聞こえて来た。

『準備ができましたぁ!』

「あぁ。」

全身真っ黒けで何日、いや何年も風呂に入っていない状態だ、歩く度に黒い埃や砂が落ちて行く。
顔も真っ黒で髪は光の加減で微かに銀色をしている。

背中などは彼女達に任せて爽貴様は浴室前で待っていた。
そろそろ入っただろうという頃合いに四人の叫び声が聞こえた。

『キャー!
爽貴様ー!』

混乱した様子の四人がいっせいに廊下まで走ってきた。

「どうしたの?」

『ち…血が…。』

慌てて何も言わずに走って中へ入った。

「貴方大丈夫なの?怪我してるの?!」

彼は一人ぽつんと座っていた。

「ゴホ…いや、何処も痛くない。」

「でも彼女達が血を見たって…。」

彼はフッと笑い淡々と答えた。

「…あぁ。
湯で身体を流した時に五年前の返り血がとれただけだ。」

「そ…そう。
なら大丈夫そうね。
ゆっくり浸かってね。」

そう言い後ろに振り返った時だった。
爽貴様の肩にズッシリと重みを感じた。
彼は両手を肩に乗せ抱き着いていた。
濡れた髪の毛が爽貴様の胸元に水が滴る。
「ど…どうしたの?」

爽貴様ははたまた真っ赤になった。

「爽貴…本当に逢いたかった。
爽貴が牢獄の近くまで来た日には兵が俺に逐一知らせに来てくれた。
俺に会わしてくれと頼んだ事もあったと…。
正直忘れられていると思っていたが、ただ爽貴の知らせだけが俺の生きている希望と支えだった。
だから爽貴に一つお願いがある。
爽貴が俺に名前を着けてくれないか?」

「私は嬉しいけれど…お父様が許すかどうか…。」

彼は少し咳をしながらニコッと笑った。

「まぁ、考えておいてくれ…。
背中流してもらえるか?」

「はい…あと…。」

「何だ?何か不満があるのか?」

「いや…は、裸の場合女の前ではタオル腰に巻いて下さい。」

彼は意地悪そうに笑い爽貴様の耳元でボソッっといった。

「わかった。
爽貴以外の女子の前では全裸にはならないようにするよ。」

「ッ…。」

真っ赤になった爽貴様をさらにからかう。
「ん?どうしたんだ、真っ赤だぞ?
そんなに嬉しかったか?」

「か、からかわないでちょうだい!」

「はははッ!可愛いなぁ。
心配しなくても約束は守るよ。」

「か、かわ…?
はは、早く後ろ向いて座りなさい!
背中流すわよ!」

「ゴホ…はいはい。」

そんなこんなで爽貴様は浴室にあった浴衣に着替えて背中を流し始めた。

それからは爽貴様が長髪の洗髪、背中流しをしながら掌国の今までの話をされ、彼は微笑みながらただただ聞いていた。

全て流し終え、彼が浴槽に浸かった時に丁度四姉妹が戻ってきた。

『も…申し訳ございません!』

爽貴様は既に彼女達の事は忘れていた。

「いいのよ、お陰で沢山お話ができたわ。
後は頼むわね。
あと、整髪と長い髪を切ってあげてちょうだい。
全て終えたらお父様の部屋にお通ししてさしあげて。」

「は、はい!わかりました。
ありがとうございます!」

そういって外へでた。
と同時に彼は口を開いた。

「っで?俺の知ってる昔の爽貴はもっとうつけだったが今はうつけとは正反対になっているが何かあっのではないのか?」

四人は眉をハの字にさせ、ヒソヒソと話始めた。

「いっても良いのかしら?」

「でも、一応爽貴様は今も…。」

「…そうよね。
掌国を潰す輩に狙われているものね。」

「そのためにうつけと呼ばれない様にと努力されてるとは…。」

『とても言えないわぁ…。』

四人はため息を着いた。

「おい、内緒話は聞こえないようにするものでないのか?
丸聞こえだぞ。」

『ッ!しまった。』

「気になるが内緒なら黙っておこう。」

ザバっと立ち上がると大きな浴槽から立ち上がった。

『すいません。
それでは気を取り直して…。』

垰蘭
「タオルはこちらです。」

垰稟
「ドライヤーはこちらです。」

垰蓮
「髪の毛はこちらで切らせていただきます。」

垰崙
「私が毘禅様のお部屋までご案内させて頂きます。」

『ご順番にどうぞ。』

既に開き直っていた。
彼女達の笑顔は眩し過ぎて少しげんなりしていた。

全て支度が整い垰崙と共に毘禅様の王室へと向かった。

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