第32章
[29]
次に相まみえた時、奴は再び問うと言っていた。服従か死か――無論、どちらも選ぶつもりはない。
強大な敵はすぐそこに潜んでいることだろう。今まで以上に気を引き締め俺は歩んでいく。
「それ以上大事な研究機材に近づくんじゃあない」
自分以外の全てを見下しているような、高圧的な声が空間に反響する。それはデルビルとはまた違う人間の声だった。
「誰だ!」
レッドが声を上げ、辺りを見回す。と、音も無く一瞬の内に、俺達の前に人影が現われた。
「騒がしかったのはお前たちの仕業だな。どうやってここを嗅ぎつけたのやら」
人間の言葉を話し、人型をしてはいるが、人間と姿は大きく異なっていた。
狐に似た大きな頭部を持ち、それを支える身体は不釣り合いにか細い。ユンゲラーの進化形、フーディンだ。
「この声、間違いねえな! あいつは俺の仲間だ」
そう叫び、デルビルがフーディンに駆け寄っていく。
「お前も奴のせいでポケモンにされちまったのか。安心しろ。こいつらにあの化け物は始末させ、すぐに元に戻れるぜ」
ふん、とフーディンは鼻を鳴らす。
「元に戻る? 何を馬鹿な。折角、授けて頂いた素晴らしい力を手放すものかよ」
「お前、何を言ってんだ……?」
困惑するデルビルに構わず、フーディンは両手に銀色のスプーンを構え、鋭い目で俺達を見回す。
そして、俺に目を止めると「ほう」と呟き、スプーンを下ろした。
「これはこれは。大事な客人方だったか。あの御方の予知で、本物のお前達が近いうちに来るとは聞いていた」
フーディンは眉間に皺を寄せ、念じる。
「――ミュウツー様、お目覚めください。件のお客様がお見えです」
脳内に直接フーディンの声が響き渡った。奥のカプセルの一つが、大量の蒸気を上げながらゆっくりと開いていく。
俺の喉がごくりと鳴った。
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