第一章
[04]古代魔術
王室を出て直ぐを左へ進み、毘禅はいきなり壁へ向き始めた。
すると壁に向かって何かを喋り始めた。
「…隠し扉か…。」
すると壁事態が右横へとスライドし始めた。
部屋は薄暗いが、とても綺麗な部屋だった。
中からは今だかつて見たこともないとても綺麗な女性が出てきた。
「戦闘は終わったのね。
貴方、無事でよかったわ。」
毘禅は一度だけ少年に向かって彼女の名前だけ紹介した。
「彼女は王紀の春麗(シュンレイ)。
さて、戦闘が終わって早速で悪いんだが、ちょっと力を貸して欲しい。
君じゃないとダメなんだ。
とにかく急いでるから話しは出来るだけ後にして貰いたいんだが…。」
王紀は直ぐにでも手を引いている少年の事が気掛かりだったが、何かあるのかと直ぐに感づいた。
「…中に入って。」
少年は入ってなお奥にある真っ暗闇の部屋へ案内され、光の加減でうっすら見えたのは下に正方形の大きな絨毯(じゅうたん)が敷かれていてた。
広さは畳八丈くらいの一室だった。
「さぁ、貴方はここに座って。」
王妃はロウソク五本を片手で持ち、指示をした。
五本のろうそくは少年の周りを五角形になるよう置かれている。
腕を組んで立っていた毘禅は暗闇の部屋から追い出された。
「今から術を解いて行くわね、今貴方にかかっている術は沢山あるけど解くのにそう時間はかからないわ。
少し体力いるから頑張ってね。」
絨毯の真ん中に足を組んで座っている少年はもう何も答えなかった。
王紀が少年の背後に廻りスゥッと息を吐く。
呪文を唱え始めてから五秒程経つと、ロウソクの煙りが舞い上がり、黒いフードを被った鼻と背の高い人のようなものが大きな鎌を持ってうっすらと現れた。
足は無く炎々とロウソクから出る煙りと繋がっている様だった。
それがロウソク全てに現れた。
方向は全て少年へと向いている。
現れて直ぐ初めて春麗が話しかけた。
「今からこの五人の持っている鎌が貴方を切り裂きます。
でも切るのは貴方にかけられている術であって肉体は切らないけれど、切るたびに貴方の生命も切り取られ、段々と力が抜けてきます。
かけられている術数によりますが、何日か術をかけられない限り治りますから安心して下さい。」
言い終わると同時に次々と少年に向けられていった。
術を切られる度に体が浮く感覚になる。
今までこの術を使うと皆気を失っていたのだが、少年は冷静な表情で一点を見つめている。
その表情からはしんどいのか辛いのか本当に平然としているのかは検討もつかなかった。
それから四時間、自然とロウソクの火が消えて鎌を持った者五人が消えた。
春麗は汗だらけで、フラフラと歩きドアを開けた。
「終わったわ。
あら?毘禅は書斎に戻ってるのかしら?
呼んで来るからきちんとまってなさいね。」
そういうと隣の部屋へと向かって行った。そのスキに少年は部屋を出た。
向かった先は王室とは逆の隣の部屋である。
流石に冷静を装っていても体力は大分削られている。
毘禅と戦っている時みたいなスピードは全くでなかった。
部屋のドアを三回叩いた。
中からは女の子の小さな声が聞こえた。
「どうぞ。」
少年はドアを開けたが、ドアを開けるにも鉄の扉を開けるかのような重さを感じた。
部屋には爽貴一人だった。
既に装備を外し普段着を着ていた。
関与は少年捕縛と聞き、丁度一階へ向かったばかりだった。
そして彼を見て驚いたが笑顔で迎えた。
「また会えたね。」
少年はスタスタと爽貴の方へ歩いて行った。
1メートル位になって止まった。
徐々に顔を近づけていく。
「……爽貴。」
うっすらと口を開くと爽貴の肩に頭が当たり、爽貴は重さに絶えれなく共にドサッと床へ倒れた。
少年の眼は既につむっていた。
流石に体力に限界が来たのであろう。
廊下からは春麗が叫ぶ声が爽貴の部屋まで聞こえていた。
「これは何処へ行ったの?待っててって言ったのに!」
呼ばれてきた毘禅は、彼が爽貴を連れて帰ると言っていたのを思い出し、じっとりと手に汗が滲み出た。
もしやと思い、春麗の部屋を出て勢い良く爽貴の部屋へ向かった。
廊下を出ると爽貴のドアは開けっ放し、もう頭の中はぐるぐると何かが回っている。ドアの柱に手を付き険しい顔で叫んだ。
「爽貴ーッッ!」
爽貴はどうにか起き上がったんだろう、部屋にちょこんと座っていた。
「お父様!どうしたの?」
爽貴は王が険しい顔をしているのを初めてみた。
柱に付いている手に額を寄せた。
「いや、何もない。」
「そう、それよりこの子冷汗かいてグッタリしているの!」
少年は爽貴にひざ枕状態で横になりただ汗だけがダラダラと流れていた。
「春麗こっちだ!」
そういって部屋に入り、爽貴の小さな流しから水を汲み飲ませそのまま医務室へと運んだ。
その後、彼が眼を覚ました頃は既に牢獄の中だった。
手錠をかけ鎖でしめられていた。
彼は死刑となっていたが、掌国の兵器として眠ることになり、公開死刑だったが春麗の幻術を使いどうにかごまかした。
少年はずっと「爽貴を出せ」と牢屋から訴え出した。
だが叶うことはなく段々とイライラしてきたのか、ライオンが叫ぶかのように叫び、四六時中叫び始めた。
近隣の牢獄者からは何度も暴言を吐かれた。
だが辞めることはなく「爽貴を出せー!爽貴ー!」と日田すら叫びかける。
爽貴だけは何も知らされず、牢獄に近寄る事すら禁じられた。
第一章 完
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