第三章


[12]赤龍


ー戦闘広場ー

翌日、日の出頃、昨日の会議出席者が赤龍みたさで群がっていた。

大半の人間は駄目出しをしている。

彫雲、関与、龍緋、爽貴様と言う順で現れた。

毘禅様が現れた瞬間周りは静になり皆頭を下げた。

「ふん、王室も舐められたものだな、頭が出れば黙るのか…。」

毘禅様はボソッと呟いた。

「さて、龍緋頼む。」

龍緋は何も言わず頷いた。

不安そうに見守る爽貴様に龍緋は笑みを浮かべた。

持っていた横笛を吹き出す。

毘禅様と爽貴様は息を飲んだ。

すると、直ぐ上にある雲が渦を巻き出した。
「なんだあれは!」

「何か聞いたことがあるなぁ。
『神呼(シンコ)ノ笛ヲ持チシ者、四神全テヲ呼ビ寄セル』と書物で読んだことがある…。」

「魔術師長!四神とはまさか!」

「赤龍、蒼龍、白龍、黒龍の四つの龍の事だ。
赤龍は全身の鱗は赤、太陽や火山から生まれた龍で口からは灼熱の炎を吐き出し一体は火の海と化する。
掌国だと一吐きで四分の一は掻き消されるだろう。」

「何と…あっ!降りてきました。」

赤龍は頭を出し龍緋に話しかけて来た。

『我ヲ呼ビシ者、貴様ハ二年前ノ童カ。
ソノ笛二呼バレ来タモノノ、貴様ハマダ契約スラシテオランゾ。
我二用ガ有ルナラバ、オ前ノ生キ血ヲ我二飲マセヨ。』

龍緋が一歩前に出た時だった、近くに居た魔術師長が止めた。

「少年よ待たれ、赤龍を呼び寄せた事についてはお前…いや、龍緋殿の存在を認めよう、しかし、赤龍に血を飲まれるのには身体の危険がありすぎる。
龍に飲まれる血はおよそ一キロ…それがどのような事か医師なら解るな?璃燕殿。」

「はい、人の体内に流れる血液は約五キロ近く、その内五百グラム強で意識は遠退く或は、意識不明になり、一キロとなると生死に関わる事態に成り兼ねないでしょう。」

周りはざわめき、毘禅様達は龍緋をとめた。
すると何処からか女の声が聞こえてきた。
「彼ならきっと大丈夫よ!
五年前、かけられていた術を解く間ずっと座っていたわ。
普通の人なら物の五分で倒れ込み意識を失っているとこなのにね。」

声の方を向くと春麗様が毘禅様の後ろから歩いてきた。

「お母様!」

「春麗様!」

魔術師長は春麗様に近付いてきた。

「これは春麗様。
どういう事でしょう、龍緋殿は術にかけられていたと…。」

「詳しくはまた後に話しますわ。
龍緋さん、契約なさい。
私達が援護するわ。

「私達か…かなりの強引だな。」

毘禅様は苦笑いで呟いた。

「貴方、良いわね。」

「はぁ…わかった。」

龍緋は薄く笑う。

「すいません、宜しくお願いします。」

「爽貴、魔術の授業で『応急処置』を習ったわね?
貴方も手伝いなさい。」

「はいお母様、やってみます。」

「爽貴様に魔術を教えている身、実践で見本になるかどうかわかりませぬが、この韋 彰廉(イー・ショウレン)も参加させて下され。」

春麗様、璃燕先生、毘禅様、爽貴様、魔術師長の彰廉殿が彼を中心に円陣を組んだ。

「龍緋、気をつけてね。」

「ああ。」

赤龍は口を開け、そのまま龍緋をすり抜けて行った。

周りはただただ彼を見ていた。

龍緋は相変わらずの無表情で立ったままだ。
空から出て来た赤龍は切れる事なく延々と身体を出してきている。

その間龍緋の身体に透き通って行く一方である。

爽貴様もまだかとハラハラしながら彼をただ見守ることしかできなかった。

無表情だった龍緋殿でも何かに耐えているのか徐々に脂汗が滲み出る。

爽貴様は見ている間だんだんと眉にシワを寄せていた。

「つらいのかしら…。」

隣に居た毘禅様がボソッと呟いた爽貴様の方をちらっと覗いたが直ぐに眼を龍緋殿へと戻った。

「爽貴、心配はいらないよ。
契約は時期に終わる。
だがそれ以上彼に近付くな、この距離はかなりギリギリの位置に値する。
これ以上近づけば龍緋共々赤龍は皆の血を飲み干すまで暴走するだろう。
所で爽貴はまだ四神の勉学はまだだったか?」

「…はい。」

毘禅様は話を続けた。

「赤龍は四神の頭であり、四神の中で一番契約内容の難しい龍だ。
そして一番命懸けの契約になる。
狙って死んで逝った者はごまんといる。
そのうちの大半は龍狩りの者達だが。
契約を結んだ直後に死んだ者もいるが珍しくもない。
龍事態の契約解消は契約者が死ぬまでだ。今までに生きていた人間はほぼ化け物に近いものばかりだ。
劉家や孫家の祖先に何人か契約を結んだ記録もあったかな。
それくらい劉家や孫家の歴史、龍の存在も長きに渡る事がわかる。
「そのあとはどうなるの?」

「生きた後か…。
確か背中に…。」

っと言いかけた時だった。

空は赤龍の尾が現れた。

「毘禅様、春麗様!尾が見えて来ました!」

「よし、準備!」

『はい!』

皆の手が龍緋に向けられた。

尾が全て入った瞬間、龍緋は眼を見開き白眼となった。

「うがぁぁぁぁぁ!!」

龍緋の身体からミシミシと軋む音が聞こえる。
璃燕先生はハッとなった。

それを合図に皆が唱え始めた。

龍緋の身体は軋む音所かバキバキと言う何かが折れるような音も聞こえてきた。

「…やはり。」

隣にいる春麗様は璃燕先生の小言を聞き逃さなかった。

「璃燕も気が付いた?」

「はい。
悪魔で憶測にすぎませんが、彼の骨は何箇所か折れているはずです!」

「爽貴!もっと集中しなさい!」

「はい!お父様。」

爽貴様の左隣にいる魔術師長の彰廉が指導を始めた。

「爽貴様!落ち着きなされ。
眼を伏せ龍緋殿に問い掛ける様集中するのです!」

(眼を伏せ…龍緋に問い掛ける…。)

眼を伏せれば当然真っ暗闇だ。

『龍緋、聞こえる?
えっと、今全身痛いのかなぁ。
まだ言ってなかったけど、五年前貴方が現れたとき友達になってくれると約束してくれてとても嬉しかったわ。
貴方の事をもっと知りたいの。
だから生きてまたお話しましょ。
頑張って…龍緋!』

『爽貴…心配かけたな…もう…終わる。』

「龍…緋…?」

爽貴様はご自身の心に龍緋殿へ問い掛けると、龍緋殿の声が聞こえてきた。

爽貴様が眼を開けた頃には既に契約は終っていた。

「龍緋!」

近きしゃがむと龍緋は私に身体を預けた。
「くっ…爽貴、ありがとう。
今回ばかりはかなりきつかっ…た。」

既に全身は真っ青だ。

「よく頑張ったわ!」

その後、龍緋は少し笑みを浮かべ意識を失った。

璃燕先生が兵に担架を至急用意をさせ、医務室へと運ばれて行った。


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