第四章


[11]失敗


ー????ー

「崇様!!
計画通り垰珎(たおちん)は掌国へ入りました。」

崇は薬を飲んでいた。

「動き出したか…、兵にはあまり気づかれぬよう速やかに龍緋の所へ参れと伝えろ。」

「はっ!」

男は頭を下げると嵐のように去っていった。

「さて、観戦でもするか。」

ー掌国・別館最上階ー

見張りの兵が四方八方に目を配る。
特にこの階の兵は視力約4.0の者達を置いている。

「し…薪宮(シンクウ)隊長!」

爽やかな顔に少し長髪長身の薪宮が現れた。
彼はここの隊長、とても優しく洞察力に長けている。
兵の未熟な面も優しくかばってくれたりと、他所属の兵からも厚く尊敬されている。
毘禅様の耳にも話が入り、次期王宮兵長の話が上がっているが、実際戦闘となると誰も止められないと言う話もある。

「どうかしました?」

「西商店街の入口におばちゃんの集団が…。」

「あら本当ですねぇ、何やら一人男の方がいらっしゃいます。」

「本当だ!
くそぅ、男前じゃねぇかぁ。
でも捕まるなら若い女性の方が良いよなぁ」

もう一人の兵は人だかりを見ながら減なりした。

「ああ…あの男前、気の毒に…。」

「ははは、しかし彼女達は嬉しそうですよね、このあとの男性も気になりますがね。

ずっとこんな平和だったら文句ないんですが。」

「そうだな、隊長の言う通りだ。」

「ふふ、さて持ち場に戻ってシッカリ見張ってて下さいよ。
私は少し毘禅様の所へ行ってきます。」

そう言い残し入口へと向かっていく。

「はいッ任せて下さい!」

そして部屋を出た。

「ふふ、敵さんもまんまと引っかかってますね。
あれで急襲だと思っているんですかねぇ?
民に見つかり捕まって情けない。

私の仕掛けはあそこから王宮に向かって後六ヶ所…、敵さんにはもう少し遊んでいて貰いましょう。」

薪宮はウキウキと毘禅様の居る書斎へ急いだ。

ー掌国西商店街ー

小一時間前。

「よぉし、軽く入れたぜ。
後は龍緋を探すだけだな。」

垰珎は商店街まで来ていたが、裏では何かが動いているのも知らず、旅人として入国していた。

「今よ!」

わあぁぁぁ

「な…何だ?
気づかれたのか?!」

何かの集団がこちらへ向かってくる。
垰陳はそれが何なのか段々とはっきりしてきた。

「お…オバチャンの軍団じゃねぇかぁ!??」

薪宮の策その1『敵を怒らせない様おだてる』
「きゃあぁぁ、かなりの男前よ!」

「…男前…俺が…?」

「きゃあぁぁ、かなりの男前よ!」

策その2『敵と思わず客と思い厚くもてなす』

「うちの旅館どうかしら?」

「私の所は安くしたげるよ。」

策その3『時間稼ぎ』

「こっちこっちぃ!」

更にオバチャンの集団がわらわらと出てきた。

「うわぁぁ、ぐるじぃ…。」

垰珎は民のおばちゃんの群れで窒息し倒れこんだ。

「あら、意外と早かったわねぇ。」

「もう少し遊ばせて貰えるかと思ったんだけど…。」

「やっぱり薪宮様には及ばないわね。
さて、コイツを王宮に連れて行くかね。」
垰珎、オバチャン達の体力により敗北した。

ー????ー

真っ暗な部屋の中、垰珎を見ていた。

パーリン

崇と男は垰珎が思わぬ敗北に苛立ちを覚え、持っていたグラスを片手で割った。
男は思わぬ敗北に崇の顔色を伺っていた。

「す…崇様…。」

「…水を持ってこい」

「は…はいただ今!」

「…戯けが。」

崇は机の上にある薬の袋を取り、瓶に入っている錠剤を口に流し込んだ。

バリバリバリ

「あいつも要なしだ…。」

廊下からバタバタと足音が響いた。

「お待たせ致しました!」

渡されたグラスを手に、一気に飲み干した。

コト…

「…唖楝(アレン)…」

「はい!」

「奴を抹殺しておけ。
次の策を考える。」

「かしこまりました!」

崇は部屋を後にし、唖楝は飲み干した空のグラスを下げた。

微かに彼の表情が焦っている様にも感じていた。

「お願いだから、崇様を怒らせないでくれ…。」

外はほのかに夕日が顔を出し、暗い部屋を橙色に染まった。

唖楝は夕方に気付き急いで部屋を後にしたのだった。

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