第25章
[09]
あの腕が届く間合いに近づくのは出来る限り避けたい。あの巨木の幹みたいな四本腕を見て正面から接近戦をしたがるなど、負けず劣らずの筋肉や甲殻で武装した猛者か、身のほどを知らない愚か者だけだろう。
生憎、俺にはあの筋肉丸太から繰り出される打撃に耐えうるような骨や殻は持ち合わせてはいない。
電撃が使えないとなると、俺に残る遠距離から仕掛ける手段は腕輪。これに賭けるしかない。だが、植物の蔓でどうにかできる相手にも見えん。
「さあ、おいで。抱き締めてあげるわぁん」
あれこれ考えているうちにカイリキーとの距離は確実に狭まってくる。長考している暇は無い。とにかく試してみるしかないか。
目を閉じ、腕輪に意識を集中させると、いつものように俺の心と何か大きな力の流れのようなものが繋がった感覚がした。問題なく今までどおり使えそうだ。
力の流れから、心の手を伸ばして出来る限り力を引っ張ってくるイメージを腕輪に伝える。鉄の棒同士をぶつけたような高い音を一度だけ鳴らし、腕輪は自らの周りに光球を灯し始めた。
緑の光球では駄目だ。蔓で動きを止めたところで、バンギラスの時のようにすぐに引きちぎられる。締めあげ、ロゼリアを手から離させるほどの力はまだ無い。ならばこの色――。腕輪を付けたほうの手を迫りくるカイリキーへ構える。そして光球の一つに意識を向けた。
ヴーンと重低音を響かせ、手の先の空間が波打つ。これはいけそうか?
「なんのつもりかしらぁん?」
しかし、起きた変化は、期待していたようにカイリキーを吹き飛ばすでも、持ち上げて投げ落とすでもなく、カタカタと奴の足元の小石が揺れ動いただけだった。即興で大きな力をもたらすのは、やはり無理なのか……。
こうなれば接近戦しかない。目の前が真っ暗になりそうだ。ロゼリアさえ救出できれば、後は電撃でどうにでもできる。何らかの手段で撹乱し、拳の直撃や、俺まであの手で捕らえられることだけは避けなければ。
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