〜第5章〜
[41]2007年7月20日 午前2時47分
月日は流れた……。
温暖化の影響は甚大なもので、去年の2倍は暑く感じる。そんな夏の日々。
日中、あまりの暑さに鳴く気力も薄れていたセミも、夜中になって寂しそうに遠くで羽を震わす。
僅か数日しか生きられない彼らは、来年になれば二度と出会えない。
今日は7月20日。
その日は、待ち望まれていた。
レイピアに流れ落ちる滴る血――
水溜まりのように広がり、白猫が舐めて喉を潤す。
「……弱いね、お姉ちゃんって」
幼い少女のものとはとても感じられない、妖艶な笑顔。
「エ……な……で……」
次に涙が落ちた。
彼女の青い杖は折られて、役に立たなくなった。
大きな黒い壁に四肢を縛りつけられている。
「…… いま、『なんで?』 って言ったの?
『なんで』か分からないの? お姉ちゃんは」
少女は身動きの取れない、彼女の腹にレイピアを突きたてた。
「私を捨てたよね? あのとき。答えてよ、そうだよね? ハレン」
彼女は、棒読みで言い続ける。そこには激怒も悲愴も無い、目があった。
「……」
縛られているのは、ハレンだった。
顔は下を向き、突きつけられたレイピアの先端を見ることしか出来なかった。
誰が見ても、生殺与奪の権利がどちらにあるか明らかだった。
「死ぬ前に、一つだけ聞かせてよ、お姉ちゃん」
レイピアの存在を確かなものにするようにハレンの腹を突いて言った。
「なんであの時、皆を殺したの? あの時に皆そう思ったはずだよ。あの時、お母さん何て言ったと思う? 『ハレンはそんなことをする子じゃない』だって」
ハレンの涙が頬を伝う。
それは体に走る痛みよりも心に迫るものだった。
心が受けた傷こそ、膿んでしまい永久に苦しめるものである。
「わた……しは。死に……たく……なかっ……くっ……うっ……」
口が動かない。
そして動かせない。
まさに、自らの罪を告白しなければならない。
静かに、命を絶たんとこちらに瞳を向けている者に対して。
ハレンは、
激痛に堪えながら
涙を抑えながら
……声もかすれながら
自らの罪を告白した。
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