第39章


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「独りでいるのは寂しいよ。僕も一匹で閉じ込められていた時、とても心細かったもの」
「私は孤独と思ったことなどない。お前が気に病むようなことではないよ」
「本当に?」
「本当だとも。だから、気を静めよ」
 アブソルは小さく頷いて、目を拭った。
 ――この私が、翻弄されている。
 役割りを課した張本人の生れ変りとも言うべき存在に、何も知らぬとはいえ逆に同情されるなど、ギラティナにもまったく形容しがたい妙な気分だった。だが、いずれは自ら手を下さねばならぬ相手だ。
余計な情は、抱くまい。ギラティナは己に言い聞かせる。
「ところで、アルセウスさんって、誰なの?ピカチュウもギラティナさんも最初にボクの事をそう呼んだから、ずっと気になっていたんだけれど」
「世界の創造主――生みの親だ。私もまた、アルセウスに創り出されたものの一つ」
「ボクってそんなすごいポケモンと見間違えられたんだ。アルセウスさんは、どうしているの?」
「アルセウスは、奴は果たすべき責任を放り、深い眠りについた」
「あの、何があったの?」
 押し込めきれないギラティナの暗く冷たく滾りだす怒りを感じ取り、恐る恐るアブソルは尋ねた。
「世界は言わば、奴の子だ。親であれば当然、子を守り育てていく責任がある。私もそれを出来うる限り支えて来た。だが、奴は捨てた。捨てたのと変わらぬ」
 ギラティナの触手が、わなわなと揺らめく。
「……すまぬな。お前に罪は無い。お前も奴の被害者だと言えるのに」
 怯えて萎縮するアブソルの姿を見て、我に返った様子でギラティナは言った。
「どういうこと?」
「最初から、誰も見間違えてなどいない。アルセウスは、お前だ。お前の中に眠っているのだ」
「えっ――」


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