第40章


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「亡者の箱にゃあ十五人、ラム酒を一瓶、ヨーホーホー」
 朝日が僅かに顔を出す早朝、調子外れの歌声に眠りの底から意識を引き上げられ俺は目覚めた。
目をこすりながらその元を辿ると、艦首の先で陽気に歌うフローゼルの姿があった。
心と耳を掻き乱す濁声に他の者達も次々と目を覚まし、非難するようにぶつくさと唸りながら起き上がってくる。
「残りは酒と悪魔が片付けた、ラム酒を一瓶、ヨー……お、やっと目え覚ましたな」
 俺達の様子に気付き、けろりとしてフローゼルは振り返った。
まったく、安らかだった寝付きとは対照的な何とひどい目覚めだろうか。
「もうじきカントーだ。そろそろ準備をしておいてくれよ」
 そう言ってフローゼルが指し示した先、遥か彼方に薄っすらと陸地らしき影が見え始めていた。
このペースならば昼前頃には着くだろう。気楽だった船旅も終わりだ。しっかり気を引き締めておかねば。


 いよいよ陸地が間近に迫り、フローゼルはホエルオーに指示を出す。
ホエルオーは大きな了解の鳴き声を一つ上げ、速度を緩めながら徐々に陸に寄っていった。
人目を避けられそうな周りを高台に囲まれる奥まった岸を見つけ、ホエルオーはゆっくりと身を停める。
「さあ、お待ちかねのカントーだ。さっさと降りれる奴から降りてくれ」
「うむ」
 促されるままに、俺はホエルオーの背から降りる。他の者達もすぐに後に続いて飛び降りた。
最後にフローゼルが降り立ち、俺達全員の姿を見渡して確認してから、やれやれと安堵と疲れの混じった息を吐く。
「言われた通り、あんたらは無事に送り届けたからな。後は――」
 フローゼルはじろりと恨めしくマニューラを一瞥する。
「言葉で言っても大人しくシンオウに帰ってなんてくれねえんでしょうね」
「何なら力ずくでかかって来てもいーんだぜ?」
 マニューラは不敵に口端を上げ、鉤爪をチラつかせながら睨み返した。途端にフローゼルは縮み上がって目を逸らす。
以前に余程恐ろしい目にでも遭わされたのだろうか。こやつの場合は自業自得のような気がして、あまり不憫には思わないが。

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