side story
[13]時を渡るセレナーデF
科学省、応接室――
沿えられた見事な宝石箱。そこにあったのは、僕が今までで見たことが無いほどの豪勢な料理達。
「父さん、こんなに気前がいい料理を出したこと、今まで無かったんじゃないか?」
「大臣として、客を丁重に扱うのは当然だ」
「はいはい……」
如月君が座り、僕はその隣に座る、更に隣にはハレンがいて、向かいに大臣とネルと清奈が座っている。
いただきますの挨拶の後、僕は真っ先に目の前のプレートに手を伸ばした。
「あっ……」
取り分けるスプーンを取ろうとして、誰かの手に触れる。
「っ!」
少しピョンと跳ねたように驚くネル。
「ああ! ごめんごめん……」
「あ……あはは。お先にどうぞ、悠君」
そう言って、ネルが譲ってくれた。
なんつーか。
今さっきのビクッとした表情が個人的にキタのですが。
そのスプーンを、空気を読まなかったのかそれとも空気を読んで敢えてそうしたのか、清奈が横から奪いイチゴ入りのフルーツポンチを透明の器に盛り付けた。清奈さん、変なオーラ出していらっしゃいますね?
「なによ、悠」
「い、いいえ。何でもないです」
「あっそう」
その横で何やら楽しそうに二ヤついている大臣がいる大臣がいた。
すると
突如響きわたる警告ブザー音。
『23番ゲートに不審人物確認。セキュリティ機能レベル拡大』
「父さん」
如月君がすぐさま立ち上がる。それに続いてネルも立ち上がる。二人は先にその部屋から出た。
「不審者って……また闇の勢力でしょうか?」
ハレンがそう言って、口の中の物を飲み込む。
「やれやれ。せっかくの晩餐の時間が代無しだな。君達は地下に避難するといい」
と、大臣の誘いが来たが
「いいえ、私達も戦闘は心得ています。如月達を助太刀しましょう」
「大丈夫なのか?」
「心配いりません」
清奈がうって出る気らしい。
「いくわよ、二人とも」
「そうだな、行こう!」
「わたしも行きます!」
「分かった……健闘を祈る。私も出よう」
『7番ゲート封鎖。16番ゲート封鎖。敵影、セキュリティガードレベル3突破。全システム、オートからマニュアルへ切り替え完了』
防衛兵が行き交うなか、大臣は今、この兵の指揮に当たっている。
僕達は長い廊下を走っていた。
《敵は闇の勢力ではありません》
《この建物を取り囲むようにネブラの気配が立ち込めている。数は4体だ》
「4体は厳しいな」
「私達と同じく、奴らもあの兵器の情報を得たいのでしょうね」
「ネブラの襲撃となると……不可視空間が展開するはずですが、ありませんね」
ハレンが視認するかぎりでは、不可視空間は無い。では、如月君やネルもネブラが認知できる。
「敵は近い……!」
そのとき
女の子の悲鳴。
「あの声は……ネルだ!」
声のした方向に向かう。
その時
「如月君!」
廊下で合流する。
「3人とも来たのか。本当は迷惑をかけたくないのだが、すまない。手を貸してくれ。どうやら相手は闇の勢力とはまた別のものらしい。レーダーに掛からないところから見ても……」
「もちろんだよ、如月君」「ネルは?」
清奈が問い、そのまま4人は走り出した。
「奴らに連れ去られた……!」
「なんだって!」
「落ち着いて。ネルは私が見た限りすぐに倒されるほど弱い奴じゃない。すぐに向かえば……」
人質を取られても、なお物事を冷静に考える清奈。一刻も早くネルの元へ行かなくては……!
「アストラル、ネルの気配は感じられるか?」
『動力室付近に連れ去られている。このままでは危険だ』
「構うものか。ネルは絶対に助けだす」
『ふん……その意志、気にいったぞ。汝らと共に向かおうではないか』
「皆こっちだ!」
如月君の導きのもと、僕達は科学省の心臓部、動力室へと向かった。
立入禁止と書かれたドアがゆっくりと開く。
「この部屋は核エネルギーを精製している。つまり、周りのデバイスを傷つけると最悪の展開になりかねない」
「だから、ここに匿ったってわけか。ここだと迂濶に相手を攻撃できない」
『一つ不安が残るな』
アストラルが僕と如月君の会話に割り込む。
「そうね、アストラル。私も気掛かりなことがある」「それって、何ですか? 先輩」
『なぜ奴らはわざわざ匿ったのか』
「そして、ネルを連れ去った真の意味は……」
「俺達を、おびきよせている……?」
真っ先に如月君が答えを導いた。
「そう。つまり私達の目をこちらに向けることで、守りを薄くする。わざわざこんな動きにくい場所を選んだのも、時間を稼ぐと考えればつじつまが合う。だから、奴らは動力室を攻撃する為でもなければ、ネルを拐う為でもない。つまり、別の理由があるとすれば……」
『こうなった以上、二手に分かれたほうが賢明だ』
「そうだな」
如月は少し熟考し、すぐに決断を下した。
「じゃあ、如月とハレンはネルを救出、私と悠で他を追うわ」
「分かった。ネルを助け次第、俺達はそっちに向かう」
僕は清奈と共に大臣のいるだろう司令室に向かった。
《セイナ、読みは当たっている。4体いるうち3体は戦闘中だが、1体おかしな動きをしている》
「そいつは今どこに向かっている?」
《最下層部です》
「さっきの実験室だな!」
下へ下へと向かい降り始めた。ネブラの奴ら、いったい何をしでかすつもりなんだ……。
――――――――――――
「行きましょう、如月くん!」
「ああ。さっきも言ったがここは危険区域だ。うかつに動くと科学省ごと大爆発を起こす。気をつけてくれ」
「分かりました」
『ネルフェニビアの位置は我が特定する』
「頼んだ、アストラル」
俺はマグナムを確かに手にして、隣にいる星影ハレンと共に中へ侵入する。
『奥の核融合炉の後ろだ』「了解した」
やはり相手は闇のものではない。ここまで近づけば気配ぐらい感じてもいいはず。
複雑に入りくんだ迷宮。
ツンとガソリンの臭いがする。
赤色の電光が降り注ぎ、視界が悪い。そして破壊すると放射能が飛ぶ危険な動力炉。非常に不利な状況だ。不意討ちだけはなんとか避けようと、壁を背につけて周辺をよく観察する。
「この奥ですね……」
緊張し心臓が鼓動を早めるのを、深呼吸して精神を落ち着かせる。ハレンの顔を見ても、先程の朗らかな顔ではなく真剣そのもの。
「っ!!」
来た。
目の前に飛んできた一直線に飛んできた何か。
迫り来る前に撃ち落とした。落ちたものを観察すると……
「コウモリ……?」
すると
「ようこそ、おいでになりました」
周りの空気にミスマッチなほど丁重で、震えるような男の声が響き渡る。聞いてて笑える。笑える程滑稽な声。
ハレンが空を見回す。
俺も同様に天井付近を見つめる。
いた。
パイプの上だ。男は、今の時世には有り得ない程の古風な衣装を着ている。
中世の貴族のようだ。
「私はアルベラ……タイムトラベラーが来ると思いましたが、来たのは一人だけですか。はなはだ口惜しい」
「タイム……トラベラー?」
アルベラが言った一人は、ハレンのことか?
ならば、悠や清奈も?
悠達がここに来た目的は……。
「耀君!」
その声を聞いてハッと我に帰る。
「ネルさん!」
「ネル!!」
ネルは小さな結界、檻のようなものが張られて動けない。アルベラのすぐ側の空中で浮かんでいた。
「彼女を助けに来たのか? 青年」
「あたりまえだ、ネルを離せ!」
「ヒヒヒヒヒ! 良いですね、そういう恋焦がれたもの同志の共演を見るのは。観客は私しかいないようだが、せいぜい楽しませてくれ」
アルベラの後ろから無数のコウモリが飛びあがる。
「如月くん、ここはわたしが!」
ハレンが前に出て、手にもつ杖を前に突きだす。
ハレンの身長ほどの青い杖。風という自然現象を操れるそれは、人類のどんな英知をもってしても突き破れないものだ。
「ドリフト!」
杖の先端に風の渦が出来たかと思うと、すぐにそれはコウモリの群の中心に向かい空気砲が放たれた。
コウモリが飛び散る。
数匹は倒したが、まだその数は多い。
『闇雲に撃っても当たるまい。【一つに固めるようにしろ】』
「1つに固めるって言ってもよ……」
いや、
いい方法がある。
「ハレン」
「何ですか?」
「----------」
俺はハレンの耳に策を告げる。
「……なるほど! 分かりました!」
再び突撃を開始するコウモリ達。
空舞う鳥を落とすのに、ただ飛び道具を放つだけでは意味は無い。
では、逃げ場を無くせばどうなるか?
コウモリの大群は収束し黒い物体になる。そうなる瞬間を待っていた。
「スプロール!」
ハレンが風を起こす。
それは吹き飛ばすものではない。風は瞬時に流れ、コウモリを囲んだ。
周囲を猛スピードで駆ける風のお陰で、コウモリの逃げ場は無くなった……!
チャンス……!!
『決めるぞ』
俺以外の何かが力を注ぐ。
「覚醒――」
何が為に人は戦うか。
何が為に彼は戦うか。
世界の為、ネルの為、そして己自身の為。
証明してみせる。
この幻獣神とともに。
この身は既に、誇り高き神の器――
「エクスキューション……」
自らのキャパシティを上回る出力。間違って自分の頭が吹っ飛びそうな力だ。その力は、いかなるものでも形容できまい。
「ブラスターーーー!!」
上空で大爆発が起こる。
爆発は動力炉の遥か上、コウモリの位置も計算に入れ、デバイスの損傷は無だ。全てが完璧だった。
「くっ……!」
アルベラが悔恨の声を漏らす。
同時に
「っ!」
ネルの檻だった結界が破れる。
「やった!」
ところ、が
アルベラがいたのはパイプの上、結界のせいで空中に浮かび上がっていたネルが
落下する!!
悲鳴と共に垂直落下する。
「ネル!!」
俺は既に体が動き出していた。しかもネルの落下地点は硝酸液タンクの中……!
まずい……届かない!
このままだとネルは!
ギリギリの所でキャッチ。したものの……
「しまっ……!」
空中でネルをキャッチはしたが、その後が問題だった。俺はそのまま硝酸液の中に――!!
落ちた、と思った所で
どういうことだ……?
俺とネルは重力に逆らい、上へと動き始める。
「大丈夫ですか!?」
「ハレン、一体どうやって……?」
「上昇気流を発生させたんです。間一髪でした」
「あ……耀……く……」
ネルの顔を見ると涙が溢れていた。
「怖かったよっ……耀、くっ……」
「分かってる。もう大丈夫だから泣くな」
俺の胸に抱きついてきた
ネル。安心させてあげる為に俺はしっかりと抱き返してあげた。肩を震わしているネルに優しく手を沿えた。いつのまにかアルベラは姿を消していた。後は清奈が……。
――――――――――――
「悠!」
清奈と特殊研究室に駆け込む。
「荒らされてる……!」
既に遅かったようだ。
「……これね、奴らの狙いは」
強化ガラスの箱が割られ、何かが奪われた形跡があった。
「このことを報告しましょう。ネブラがこれを奪ったということは、必ず兵器に関わっているはずよ」
そのまま僕達は司令室に戻ることにした。
――――――――――――
ネルは助かった。
俺の大切な仲間が無くなるなんてことにならなくて、胸をなで下ろせた。
しかし、気になることが一つできた。
タイムトラベラー……
一体あの3人は、何者なのだろうか……?
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