第43章


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『は、はあ? つーか、なんだこりゃあ、ネズミがもう一匹ぃ? ちぃと色が違うし、
布着れ着てやがるが……』
 黒猫は怪訝そうに眉間に皺を寄せ、俺と背後の彼女を交互に見やった。
”危険だ、隠れていろ”
〈もう、いつまでも顔を見せずにいたら、紹介してもらう意味が無いじゃないですか〉
 後ろから顔を覗かせる彼女に引っ込んでいるように俺は言うが、顔を見せなきゃ紹介の意味が無いと、
彼女は俺の腕を押し退けて黒猫の前に踏み出た。
『はてさて、どこからこんな奴沸いて来やがった。ネズミは一匹見たら三十匹は居るって言うがよォ。
さすがのこのオンボロ宿だって、こんな馬鹿でけえネズミが勝手に住めるような穴や隙間はねえハズだぜ』
 黒猫は殊更表情を険しくして彼女を見下ろす。
 俺は黒猫が少しでも手を上げる素振りを見せたら庇える様、隙無く身構えた。
〈はじめまして、この御方のお友達の黒猫さんですね〉
 彼女は悪態に一歩も怯むことなくニコニコと笑顔でまっすぐ黒猫を見上げ、
一体どこをどう見たらそうなるのか、黒猫が俺の友達だと判断した様子で和やかに挨拶した。
『おいおい、テメェ、さっきから聞き捨てならねえな。何をどう見ていたら、
この俺様がこんなクソネズミなんかと、友達に見えやがんだ?』
 またしても気抜させられそうになるのをぐっと堪えた様子で、黒猫は果敢に悪たれてかかった。
〈違うんですか? あんなに長い間じっと仲良く顔を向き合わせていたので、てっきりそういう仲なのかと〉
 それを再び彼女は柔和にトボけた態度で返す。

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