〜第5章〜
[20]昼12時19分
「フェッ……フェルミ?」
僕が声の主の名を言ったとき、清奈の動きが止まった。
清奈は
「やば……」
と、本気でやばそうな声を漏らした。
「……?」
フェルミの声はさくらちゃんには聞こえていない。
急に青ざめた清奈を、不思議そうに見つめている。
《タイムトーキーを置いてきたからといって、我が見ていないとでも思ったのか貴様は! 契約した以上、貴様の思っていることが手に取るように分かるのだぞ!》
え?
じゃあパルスも?
《はい……その……ユウ……》
……いや、もっと早くにそれを言ってくださいよ。
《そうしようと思ったのですが……その……あまり、嫌そうでは無かったので……その……》
はいはいはい。
そうですか。
悪かったね!
こんな状況で嫌そうにしなくてさ!
自暴自棄に陥りながら(どんだけ羨ましい理由じゃ! という突っ込みは封印)僕はそう思った。
「わ、分かったわよ。分かったから怒鳴るのはやめて……」
《空川さくらが邪魔故に、今は口を閉じよう。後で相応の覚悟はしておけ、セイナ》
「はあ……フェルミの説教は長い……」
《何か言ったか》
「なにも」
清奈がそのもみくちゃから離脱した。
やっと、抜け出せる。
さくらちゃんと清奈の手足をほどき、清奈が僕とさくらちゃんから離れ……
もにゅ
ん?
また柔らかい感触が……僕の鼻に……?
何なのか確認したくても、ギュッと押しつけられているせいで全く見えない。
横を向いた。
水で滴る、柔らかな……。これは腕……?
じゃない、太股だ。
じゃあ、今僕の顔に押し付けられているのはずばり、ま……。
「きゃああああああ!?」
本日、最大音量の悲鳴。
その声の主はさくらちゃんだ。
ついに、僕の理性は崩れさった。
「さ、さくっ……うぼっ!」
「はうぅっ! しゃべっちゃ……め……れすっ……ひやっ!」
吐息やら鼻息やら、口の動きやらでさくらちゃんの……えっと……最も大事な部分に刺激を与えてしまう。何て言い回しをしてるんだ僕はあぁあぁあぁあぁ!
ドーン(何かが壊れた音)
気がついた。
ここは?
「おい、初めてのキス、テンパり過ぎたんじゃないのか?」
そういって僕の右側の視界から飛び込んで来た。
テンパり過ぎたっていうかキス以上の事態になっていたような……。
「お前が気絶してもうたって2人が言うもんやからな」
そしてふっくんの隣にいた原田。
「大丈夫ですか?」
「……全く、なんでこんなことに」
さくらちゃんと清奈が付き添っていてくれたらしい。僕は大丈夫であることを示す為に起きあがった。
ここは……プールの出口か。
4人とも既に制服に着替え終わっていた。
僕のビショ濡れの体操服は……あれ、制服になってる。
「着替えさせてくれたのか?」
「ああ、俺らがな、ほらよ」
ふっくんが、僕が着ていた体操服を投げてパスした。下着の代えが無かったのでかなり気持ち悪いが、そうも言ってられない。
ん?
原田、どうした?
耳元に近付いて、なになに?
「随分と、いきり立ってたで〜?」
僕は瞬時に右ストレートを顔面に叩き込んだ。
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