第43章


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『今は見逃す。でも、俺はお前も奴らも許さない……! すぐにここから出てけ!』
 ゾロアークは手に持った軍のスカーフを火を吹き出して燃やし、
燃えカスを見せ付けるように踏み躙って消すと部屋を勢いよく飛び出していった。
 その背を見送り、彼女は嘆くように小さく項垂れた。
<重ね重ね、ごめんなさい……。普段はこんな乱暴は絶対にしない、寡黙で優しいひとなんです。
でも、ここまで見境が無くなってしまっているなんて――>
 燃えカスを片しながら、沈痛な面持ちで彼女は再度謝罪した。
”随分と俺は憎まれているようだ”
 未だ残る肺を直接締め付けられるような感覚を堪えて俺は言った。
<以前にもお話しましたが、この教会には戦渦に巻き込まれ身寄りを無くした子達が大勢います。
彼もまたその一匹です……>
 彼女の話によれば、ゾロアークもまた戦争で身寄りをなくした者の一匹だったらしい。
小さなゾロアであった頃に一族で暮らしていた住処を、進軍する軍隊にもののついでのように掃討、
焼き討ちされ――恐らく、一族の持つ一片に大勢を化かす事が出来るほどに強い幻影の力が、
いつ任務の障害となるやもしれないと疎まれたのだろう――彼はただ一匹生き残った。
まだ禄に食べ物を得る手段を覚えていない幼い身に野生を生き抜くのは当然に苦しく、
衰弱しきった状態で彷徨っている所を運良く牧師の目に留まって連れてこられたそうだ。
<最初の内は塞ぎ込んでいて中々心を開いてくれなかったけれど、
いざ打ち解けてからは歳が近いこともあって、彼とは兄妹のように育ちました>
 やがて成長し立派なゾロアークに進化した彼は、救ってくれた牧師や村の人々の
恩に報いようと村の番人を買って出た。いつかまた己の故郷のように村が理不尽な暴力に
晒されてしまうことを危惧してだ。

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