第43章


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”あの黒い獣は君の知り合いか?”
<はい、彼は――>
 どうも彼女とは顔見知りらしい素振りを見せていた黒い獣の事を俺は尋ね、
彼女がそれに答えようとしていたところで、突如として扉が乱暴に開け放たれ、
何者かがが部屋へと飛び込んできた。それは、件の黒い獣だった。
『目覚めた、な……』
 獣は赤い鬣を大きな炎のようにめらめらとざわめかせ、肩を怒らせて今にも爪を振り上げて
飛び掛ってきそうな剣幕で俺の方に向かってこようとしていた。
<やめて、ゾロアーク。このひとは敵じゃないって言ったでしょう>
 すぐに彼女はゾロアークと呼んだ獣の前に立ち塞がり、押し留めようと手を広げた。
『駄目だ、信用できない。危ない、どいていろ』
 しかし、ゾロアークは数倍近い体格差で持って彼女をひょいと軽がる抱き上げて脇に退かしてしまい、
俺にずいと顔を寄せた。
 獣は牙と憎悪を剥き出しに、ぐるると唸りながら俺の目をじっと見据え続けた。
”さて、どうも急に背中から斬り付けた事を詫びる、という態度とつもりではないように見える。
彼女からも伝えられたであろう通り、当方に彼女及び村の者達に危害を加えるような心積もりは無い。
誤解に依る攻撃であるのなら、手痛い損害を受けはしたが水に流すこともやぶさかではない。
まずはその好戦的な対応の解除と釈明を要求する”
 睨みあっていても埒が明かないと、俺は淡々と口火を切った。


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