第43章


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<意識が、戻って……? ああ……よかった、本当によかった……!>
 彼女は俺の手を両手で包む様に握り返し、目を一杯に滲ませた。
<ごめんなさい、謝って済むようなことではないとわかっています……。
私が別れを惜しむばかりに、あなたを引き止めたりしなければ、
きっとこんなことにはならなかったのに……本当に、ごめんなさい>
 彼女は顔を俯かせてただひたすらに謝り続けた。握り合う手にぽたぽたと涙が滴り、伝った。
 対して俺は、長い間寝ていたような感覚と、おぞましい悪夢からひとまず解放された安堵感で
頭がぼうっとしていて、状況も掴めずきょとんとその稀有な光景を見ていた。
彼女があんなにぼろぼろと泣いている姿なんてその時まで見たことが無かった。
”……ここ、は? 恐縮だが、今は謝罪より現状の説明を願う”
 溺れ掛けてやっと水際に上がってこられたかのように荒れている息を整え、俺は簡潔に尋ねた。
<は、はい――>
 嗚咽を堪えながら彼女は話し始めた。

 俺が目覚めたのは、彼女が住まう教会の一室だった。
黒い獣の不意打ちによって重傷を負い意識を失った後、俺はすぐさま村へと運び込まれて治療を受け、
どうにか一命は取り留めたものの、数日間昏睡状態にあったらしい。
ずっと弱弱しく苦しそうにうなされ続ける俺に、彼女はろくに寝食もせずに付きっ切りになって
看病していたようだ。その目元には涙での腫れとは別に、疲れと隈が少し浮かんで見えた。


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