第43章


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 暗い暗い場所だったよ。よく死の間際には、まさしくこの世のものとは思えないような
花畑とか川原とか、はたまた神や仏なんて呼ばれる者達と対峙するとか、
不可思議で綺麗な光景を目にするって聞いたことがあるけれど、そこには暗闇以外何にも無い。
もしかしたらまだ辛うじて意識の残りカスがあるから暗いと感じるだけで、
そこには暗闇さえも無いのかもしれない。ある種の人間達が信じて説き唱えているような、
天国とも地獄とも食い違う、そこには的確に言い表せる言葉も無い----なぞのばしょ。
そんな場所を俺はぽつねんと漂った。
 ああ、俺はあの獣に背から裂かれてそのまま死んだんだな。冷静にそう判断できた。
迷いも恐れも怒りも沸いてはこなかった。これでいいんだとすら思った。
このまま俺はきっとどこにも行くことも何もすることもなくここに留まり続け、
やがて考えることすらもやめて無の一部となるんだろうと淡々と考えた。
しかし、そんな静かに消えていく事は俺には許されなかった。”彼等”は逃がしてはくれなかった。
 急に周りに存在を感じた。棒状でゆらゆらとしていて、平たい先の方に何本かの細長い突起がある。
それは何本もの、何十本もの、何百本もの、無数の手、手、手。
認識すると同時、手は俺を捕らえようと一斉に群がってきた。

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