第43章


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 ――もしも、あの時、あのまま彼女の手を引いてどこか遠くに逃げてしまっていたら、
運命はどう変わっていたんだろうか。
 いや、上手くいく筈がない。一時の迷いのような覚悟で村を捨ててしまったら、
きっと彼女は深い後悔にくれてしまっただろうし、あの時の俺には過酷な逃亡生活の中で
そんな状態の彼女を守りきる事は出来なかっただろう。

 再び訪れた幾ばくかの沈黙の後、またいつか会えるでしょうか、と彼女は尋ねた。
俺はそっと首を横に振るった。
”きっと、もう会える事は無いだろう”
 俺は焼け跡の上に立ち尽くしたまま、木立の中の彼女に向けて言った。
”俺はこっち側で産まれ、ずっと生きてきた。そして、これからもそういう生き方しかできない、
許されないだろう。だが、君は違う、シスター”

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