第43章


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 いつも、どこかのほほんとしているようでありながら、彼女はしっかりと俺達の事を見て、
聞いて、まるで骸転がる荒涼とした砂漠から砂金の一粒でも見つけるみたいに大変であろうに、
良い面・長所となる部分を把握していた。いや、彼女にとってはそれは灼熱の砂漠などではなく、
暖かい砂浜であり、そこから綺麗な貝殻の一つでも見つける程度に容易い事なのかもしれない。
少しくらいゴミが転がっていてもひょいと拾い上げて取り除いてしまうのだ。

 スカーは表情を複雑にくしゃくしゃと歪めてから、『ふぅー……』と長い溜息をついた。
『俺の飲むペースに最後まで着いて来れんのは、あの野郎くらいのモンだったよなぁ。
ジョッキや酒瓶ごと丸呑みしやがってよォ、ヒャハハ、ハ……ちくしょう』
 ぎり、とスカーは歯を噛み鳴らして目元を腕で拭い去り、壁を叩き付けた。
 時に己の身を危険に晒すことすら強いられる俺にとって命など、それも他者のものなど、
意識すらしないように努めていた。他者の命なんて二の次、三の次、最重視すべきは命令の遂行、
敵の排除だと訓練・調教によって骨の髄まで染み渡るように叩き込まれてきたんだからな。
 この部隊にいる者達も重視しているものはそれぞれ各々、単純に己の命であったり、
食欲だったり、功労だったり様々に違っていても、全て自分のためになるものであり、
他者の事を思いやる、命を気にかけている奴なんて皆無に近いだろうと思っていた。
 だが、彼女の存在によってそれが少しずつ変わっていった。
いや、本来あるべき姿へと段々と戻っていったと言うべきなのかも知れない。


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