第41章
[67]
屋上には室外機や貯水タンクらしきもの以外には何も無く、あっしらの他には誰もいなかった。
「さあ、ここが最上階だろ。どうするつもりなのか、いい加減言いやがれ」
敵の足音は近い。だが、あっしは慌てず騒がず、マフラー野郎に問いかけた。前述の言葉で、
この時のあっしは心底マフラー野郎を信用しきっていた。
「ああ」
言って、マフラー野郎はあっしの足をがしりと掴んだ。「ん?」と心の中では違和感と疑問符を浮かべつつも、
あっしはマフラー野郎を信じて黙って行く末を見守ることにした。
「よし、お嬢さんはピチューを背負ったまま俺の背に負ぶさって、離れないようにしっかりとマフラーで体を結び止める」
「ああ……何となく、やろうとしていることが読めたよ。だけど、こんなマフラーだけでちゃんとアタシとガキの二匹を
支えられるんだろうね?」
「大丈夫、このマフラーは決して俺を裏切らないから」
「ふうん。ま、このまま奴らに捕まって最低な目に合わされるよりゃ、いっそ落っこちて一思いに死んじまった方がいいかもね」
言われるままにニャルマーはピチューを背負い、マフラー野郎に負ぶさってマフラーの長い裾で全員を結びつけた。
「お、おい……まさか……」
この辺りでようやく、あっしはマフラー野郎のやろうとしていることが薄々わかり始めた。
あっしはそそくさとその場を離れようとするが、既に片足はしっかりと握られていることを思い出す。
「さて、いよいよ、君の重要な出番さ、ヤミカラス!」
高らかにマフラー野郎は告げる。
「おいおいおい! 待て、無茶苦茶だ、無理に決まってんだろ!」
あっしはじたばたと暴れるが、ネズミとは思えねえような力で引き寄せられ、とうとう両足を掴まれてしまった。
優しい言葉にうっかり丸め込まれたようになっていたが、こいつが無茶苦茶ばかりする野郎だってことは、
何一つ変わっていねえんだ。黙って行く末を見守っているなんて、どんな無茶をさせられるか分かったもんじゃねえ。
完全な自殺行為だ。あっしは前言を心底後悔した。
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