第43章


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 とうとう彼女は食堂の前へと辿り着き、
〈うん、皆さんがいらっしゃるのはここみたいですね〉
 呑気に扉の隙間から中の様子を覗き込みだした。
 その傍で、俺は心に少しばかり緊張を走らせていた。こうなったら、彼女の存在を隠し通そうとするよりも、
いっそ明らかにして、手を出せばただでは済まさないと宣言しまった方がいいのかもしれない、と俺は考えた。
リスクはあるが、聞き分けの無い者が居た場合、全員の前で徹底的に叩きのめすことが出来れば、
良い見せしめとなる。ケダモノにものを教え込むには、力でもって屈服させるしかないのだ。そう思い込んでいた。
”俺が先に行く”
 俺は意を決して、今にも扉を開けて食堂に入っていこうとしている彼女を腕で阻んで言った。
〈あら、もしかしてあなたの方から先に私を皆さんに紹介してくださるんですか?
 助かります、やっぱり初対面の方々が大勢いる前だと、私もちょっと緊張しちゃいますから〉
 俺の覚悟など知る由も無く、もしかして俺の方から自分を紹介してくれるのかと、のほほんと彼女は言った。
俺はがくりと気抜けしそうになってしまうのを堪え、うんうんと適当に相槌を返した。
”後ろから、なるべく俺の傍を離れないように付いて来い”
 言って、俺は勢い良く扉を開けた。
 乱雑に皿が積まれた長机を囲んでがつがつと食事を貪っていた奴らの手が一瞬固まり、視線が一斉にこちらに集った。


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