第43章


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”待て、ここにたむろしているのはまるでケダモノのような輩ばかりなんだ、シスター。
 君のようなか弱そうな奴がのこのこと出て行っては危険だ”
 廊下を駆けて行こうとする彼女を追いながら、俺は急いで呼び止めた。
〈ケダモノ? 私とあなただってネズミの一種、言わばケダモノの仲間ですよ。
なら、なにも怖がることなんてないじゃないですか。むむ、あっちから騒がしい物音っ!〉
”そういうことではなくてだな。こら、話を聞け!”
 だが、彼女は俺の言葉をまるで気に留めることなく、黒いフードからはみ出させている長い耳と、
尻尾をアンテナのように立ててピコピコと揺らしながら誰かの気配と物音のする方へと向かっていった。
 その時は丁度、食堂でポケモン達に食事が配給される時間だった。この部隊において、
それはもっぱら第二の戦場と称されていた。野次と食い散らかし、時に皿や拳や技が飛び交い、
見苦しい食料の奪い合いが繰り広げられる。もしも几帳面なテーブルマナーの講師がその場に居合わせたら、
顔を真っ赤にして憤死してしまいそうな、不作法不行儀を掻き集めた掃き溜めだ。
そこに彼女が隙だらけで出て行ったら、あっという間に捕まってスペシャルディナーとして食卓に上げられかねない。
 それも知らず、彼女は騒がしい音を聞き付けて、食堂の方へどんどんと進んでいく。
言葉ではもう止められない、とはいえ下手に無理矢理押さえつけて怪我をさせてしまっては本末転倒だ。
いざとなれば、部他のポケモンとの荒事も視野に入れなければならないかもしれない。俺は苦々しく舌打った。

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