第43章


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――それは、長い長い戦争が、ようやく終結し掛けた頃の事だった。
多大な犠牲を出しながらも自国の戦況は優位に傾き、勝利はもう時間の問題とされていた。
戦闘に駆り出される回数も目に見えて少なくなり、平穏な日々が続くようになった。
自軍の兵士やポケモンの表情も明るく穏やかになり、時には笑顔さえこぼれるようになった。

――だが、周囲が和やかになっていくのとは逆に、俺自身は段々と落ち着かなくなっていった。
何か漠然とした不安のようなものが頭を掲げ、重く圧し掛かるようになっていた。
やがて、その重圧の正体が序々に明らかとなっていくと、俺は行き場のない焦燥に陥った。

――俺の人生は、常に戦いの中にあった。それは、俺の唯一の存在意義であった。
だが、その戦いが終わってしまったら、俺は一体どうなる?
利用価値を失い、用済みとなった「兵器」に、どんな未来があるというのだ……?

――そんな或る日、自国に抑留中の敵軍小隊が秘かに撤退を始め、国境付近へと移動している、
という情報が入った。先回りして彼らの行く手を塞ぐ為、俺の所属する部隊はすぐさま出動した。
移動先と予測される場所には、国境線に沿って大きな森が広がっていた。
一旦そこへ紛れ込まれてしまえば彼らの脱出は容易となり、捜索は困難になると思われた。

――自軍は大胆にも、森を全て焼き払い、敵軍が脱出する事も、身を隠す事も封ずる策を講じた。
俺は風上から火を点けるように命じられ、単独で森の奥へと向かった。
度重なる戦火によって半ば枯れ掛けた木々の中に、一際大きな老木があった。
俺は、心に巣食う、言い様のない苛立ちをぶつけるかのように、老木へ向かって雷を落とした。
老木は轟音と共に弾け散り、めらめらと面白いほど簡単に燃え上がった。
次第に燃え広がる炎の渦を背に、俺は風下へと走った。

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