黒猫の君と白猫の僕(君と私番外編/完結)
[05]お願い1
目の前には、茶色い玄関のドアがある。
でも、そのドアを開けることができない…
やっぱり、怖い…
「智、何してんだ?さっさと家に入れよ」
「あ、お兄ちゃん…」
「あー…そいつ、拾ってきたから…入れないのか」
お兄ちゃんは、僕の顔と箱の中の子猫を見て、困ったような顔をして笑った。
「うん…お母さんとお父さん、怒るかな…」
「どうかな…、俺も拾ったことないし…とりあえず、家に入れよ」
ガチャリ、とドアを開け、お兄ちゃんは僕の背中を押した。
押された勢いのまま、僕は玄関をくぐってしまった。
「ただいま〜」
「…ただいま…」
「おかえりなさい。うがいと手洗いをしてらっしゃい。ごはんできてるわよ」
みゃー
ごはんの声に反応したのかはわからないが、僕たちより先に、子猫が返事をしてしまった。
「あら、あらあらあら…智、拾ってきちゃったの?」
「…うん。…お母さん…、うちでね…、飼いたい…んだけど…」
言いながら、だんだん怖くなってきた。もしも、ダメだって言われたらどうしよう…
もとのところに返しておいでって言われたらどうしよう…
「智…。お母さんも、お父さんもね、猫を飼ったことがないの。知ってるよね?」
「うん。知ってる」
やっぱり…ダメなのかな…お母さん、困った顔してる。
「お母さん。この子のお世話は、僕が全部するから…トイレのお掃除とかちゃんとするから…」
箱の中の子猫を見ながら、思いつくことを言おうと思ったんだけど…怒られるのが怖くて、言いたいことが言えないよ…
「お願い…お母さん。…っく。お願い…だからぁ……ひぃっく」
「あー…もう、泣かないの。智の言いたいことはわかったから…」
「飼っていいの?」
「まだ、わからないわね。お父さんに聞かないと…ね」
お母さんは、にっこり笑って僕の頭を撫でた…
「とりあえず、物置からダンボールとってきて。お母さんは、バスタオルとか用意するから」
お母さんはそれだけ言うと、バスルームへ向かった。
「ここで待っててね」
「いいよ。俺が行ってくる。智は、そいつを拭いてやれよ。なんか汚いし…」
僕が、アイスの箱を床に置こうとしたら、お兄ちゃんが物置の方へ行ってくれた。
僕も、この子のためにしてあげなくちゃ。
おしぼりをお湯でぬらして、固く絞る…
そのおしぼりで、子猫を拭いてあげる。優しく、乾いてしまったアイスをふき取る。
子猫は、暴れもせずにじっとされるがままになっていた。
「ただいま〜」
がちゃりとドアが開いて、お父さんが帰ってきた…
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