〜第3章〜 清奈


[42]時刻不明 無刻空間…


古ぼけた木造の部屋。少しだけカビ臭く、窓が小さいゆえに換気がうまくできていないようだ。そしてこれまた古いロッキングチェアに座る少女

「ツクヨミ!」
「だから招集かかったんやろ?」
「しゅーしゅー!」
「だまりんさい。ちょっとの間」

誰かが、金きり声の主であるコウモリの頭に、細長い杖を叩き付けた。
その杖を持つネブラは
ネブラに見えなかった。

つまりは、普通の人間のように見えた。そして中学生ぐらいの女の子のように見える。

ネブラは黒を基調とする生き物であり、服装もまたしかりである。しかしこの少女は、服は白く、スカートを着て、上着も薄地で活動的な印象を受ける。

「しょーしゅー」
「あんさんは『しょーしゅー』しか喋れんのかいな。今行くから静かにせえや、そんなキーキー声ずっと聞いとったらな、うちの頭がおかしくなるやろ?」
「ツクヨミ!!」
「……もうええわ」

この少女はツクヨミと言うらしい。

「うちがいつまでもソディアックの下っ端なんも、あんさんがアホやからちゃうん?」
髪の毛は真っ白で、真っ直ぐ地面に向かって落ちている。髪の毛の長さはベリーベリーロング。その髪の毛は足元まで届くか届かないかというほど。
「さてさて、招集かかったみたいやし……久々の狩りの時間やなあ……!」

少女は、壁にかけてあった二本の小刀を手にする。

片方は白く、片方は黒い。双極の小刀は、鞘が木で出来ているようだが、木の独特な温もりはあまり無い。冷たい鉄の壁にかけていたから、なのかもしれない。武器も、やはり所持する者によって大きく変化するものだ。




所変わり、再びウィズの研究室。
アルはゆっくりと、歩くと呼ぶより漂うように、中へと入る。

「貴様の引きこもりっぷりには私も驚きを隠せんな。」

返事など最初から期待していないらしく、そのままアルはブーメランをウィズに向かい飛ばす。

曲線を描き、アルの所に帰る前に、鉄製のアームがウィズの椅子の背もたれから延びてキャッチする。

「解析、及び処理装置の改変、更には全能力値をコピードールに投入。以上のことをやってもらえばいい。貴様なら簡単だろう?」

返事の代わりに聞こえてきた空のジュースをストローで飲むズズズっといった音が返る。

「では……」

ウィズはここに来て、初めて口を開く。

「ボクが外に出る必要は無い、とのことですね。どうぞ」

「ああ、必要ない」


その時

「またせましたな、アルはん」

「む……?」

先程のツクヨミと呼ばれた少女が、部屋に入る。

「こんな所で作戦会議かいな? もうちょっと広くて明るい所にしたほうがええんとちゃうん?」

「今回はこいつの手を煩わさねばならないが故の選択だ。貴様が意見をする権利は無い」

「……すんまへん。怒っとります?」

「……多少――」
「ところで」

ウィズが2人の会話に割り込む。

「ツクヨミは向こうに行くのですか? どうぞ」

「はいなウィズはん。なんならうちと来ます?」

「そうですねぇ……ツクヨミが向かうのならば考える余地はあるでしょうね、どうぞ」

「ふん、貴様達は仲が良いらしいな。ツクヨミ、ウィズと会話できるその能力(スキル)は貴重だぞ」

苦笑しながら言うアル。
儚い存在をかもしだすその男と、
16進数の天才であるその少年と、
二本の小刀を携える白い少女。

また新たに、奴らは動き始めるらしい……。

暗い暗い
闇の奥。

ここは輪廻の外の空間。
黄泉(よみ)の国と同じ部類に値する世界。
決して進まず、
時はなく、
永久に流れる未来も初めから存在しない。
ネブラとはそういうもの。
そして……

また輪廻の「中」の世界に、揺らぎが起こり始めたのである。

「狩る」為に……。






第4章に続く……

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