第一章 始まりは突然に
[04]第四話
如月は、倉庫室扱いとなっている父親のクローゼットから色々と荷物を取り出した。着替え、サバイバルナイフ、単眼鏡、端末機器などである。
そして、それらを丁寧にかつ素早くザックの中に詰め込んだ。 その後、そのザックをダイニングの椅子の上に置いた。
次に、部屋にあるすべての窓から外をチラリと覗いた。一応カーテンで締め切り、中を見られないようにしているが、もしもの事態にそなえての事だった。また、外を見た時にどんな脱出経路を作れるかを考える事も忘れなかった。
すべての安全確認を済ました後、先のザックを持ちながら、如月は自分の部屋に入った。
ネルフェニビアは、すやすやと静かに寝息を立てながらベッドで寝ている。
そんな彼女の姿に内心ではホッとしていた。
ネルフェニビアを起こさないよう注意しながらコンピュータを起動する。
ディスプレイが空中に浮かび上がり、如月はさらに色々なディスプレイを表示させた。それらの大半が映像ディスプレイで、映し出しているのはマンション付近の映像だった。
今のところ全ての道を映し出しているディスプレイには異常がない。問題は、空中を映し出しているディスプレイだった。
「こいつが気になるな」
空中を映し出しているディスプレイの一つを最大望遠で表示させた。
そこにはカラスのような黒い点が浮かんでいた。
「やっぱりダメだな。倍率が低い。一応警戒はしておこう」
要監視指定をして、異常が確認され次第アラートが鳴るように設定した。
「これでひとまずは安心だな。後は、いつ父上が帰って来るかという事といつ敵の襲撃に遭うかだな」
如月は棒付きキャンディーを口にくわえ、椅子に背を預けた。
考える時には、何かを口に含んでいないと落ち着かないという癖を持っているのだ。
ディスプレイを眺めながら、ボーッとしていると、ゴソゴソと音がした。
ベッドの方を見てみると、ネルフェニビアが起き上がっていた。
「まだ寝ていろ。対策が整うまで、まだ時間がある」
「いえ、ずっと寝ている訳にもいきませんので」
如月は、やれやれと思って椅子から立ち上がった。
「そろそろ包帯を取り替えるから、横になれ」
「え……? ええ!」
ネルフェニビアには、顔から火が吹き出んばかりに赤面した。
如月は怪訝な顔をしている。
そして包帯や消毒液が入った小箱を手にして、ネルフェニビアに近付いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「待ても何もあるか。化膿しないよう定期的に包帯は取り替える必要がある」
如月はそう言うと、ネルフェニビアの服を無理矢理たくしあげた。
胸が見えるか見えないかという際どい位置まで見えている。
「ふええぇ」
ネルフェニビアは顔を真っ赤にして、目が涙目になっている。
如月は、そんな事にはお構いなく、腹部の包帯を外していく。
「うん。化膿はしてないから大丈夫だ」
如月は傷口の状態を確かめながら言った。
ネルフェニビアの腹部は、色白のわりには引き締まっていて筋肉質だった。
当の本人は、赤面で涙を必死に溜めている。
如月は手早く消毒液を塗り、新しい包帯を巻いた。そして、たくしあげていた服を下ろした。
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