〜第3章〜 清奈


[38]2006年8月1日 夜7時57分


目の前に広がる黒髪
麗しきかな。

左腕に見えたのは、

「……海色……リボン?」
パペットショーがまさに僕の頭に振りかかろうとした時に、颯爽と現れた戦姫。

銀色のマント、黒い髪
瑠璃色の瞳、そして確かに光る澄んだ緑色の剣。

「まだ私は倒れていないわよ。サーベル」

仲間を拒んだ清奈が、
自分の身は自分で守れと言ったけれど、僕を助けてくれた。

やっぱり、なにも出来なかったな……僕。

「まだ生きてやがったかアマぁ!!」

サーベルはバク転する形で、下から上に、足の爪で清奈に攻撃する。そして後退。

弧を描き、空気、空間をそのまま断絶する。

その攻撃を弾いて、清奈もまた下がる。僕の側へと。

「はん。雷もロクに使える状態じゃ無えのに、勝てるとでも思ってんのかぁ?」
「……黙れサーベル。お前ごとき、雷など必要ない。このフェルミで十分よ。」

「アヒャハハハハハ!! よく言ったもんだぜ! これでも俺様は分かるんだぜぇ? 立っているだけで精一杯ってことがよぉ!!」

確かに……そうだ。
立てる気力があったのはさすが清奈といった所だが、ますます清奈の力が衰弱している。余りにも分が悪すぎる展開だ。
それでも、
僕の仲間は、屈することは決して無い。
次は僕の番。
清奈が僕を助けたように、僕が清奈を助ける番。
助けられっぱなしじゃ仲間にはならない。
今こそ、次こそ、今度こそ僕と清奈が本当の『仲間』になるとき……!

サーベルが低い唸り声を上げる。

「はぁぁぁぁぁ……!!」

再びパペットショーの奇怪なエンターテイメントが始まる。

再び動き出す鉄骨の山
空中に浮かび上がり、サーベルの頭上に集まる。
巨大な球体のように全てが収束する。

「ぁぁぁぁぁ……!!」

地面すら揺れ動き始める。この有山シーサイドパークじゅうにある全ての無機質物体が一つに収束していく。

更にサーベルの方向から突風が吹き荒れ、近づくにも近づけない。

「悠」

清奈の声が聞こえる。

「あれがあいつの最強の攻撃。あの攻撃の直後、サーベルを倒す」

「こんな状況で……! どうやって……!!」

僕は風で吹っ飛ばされないように必死で足に力を入れて耐える。

「パルス。私に全ての魔力を供給して。あと1分で、全てを終わらせる」

《……分かりました。しかし、それにはユウ。貴方の力が必要です》

「僕の……力?」

僕の力が……必要なら

「分かった。やってみせる。どうすればいいんだ?」
《-------------》

……。
何だって!?
パルス、それは……!!

《これが最も確実な方法です。お願いします!!》

いや、こんな状況だ。
断るわけにはいかない。でも、清奈が……。

「いいわね? 悠」

確認を取られた。

よ……よぉし!!





更に鉄の塊は巨大化する。もはや一つの惑星か。

「ぁぁぁぁぁああああ………!!」

ついに全ての物が一ヶ所に収束した。

「何かゴチャゴチャ喋っていたらしいが……これが出きた以上は何しても無駄だ。アハハハハ……!!」

サーベルの空中にできたその球の直径は10メートルを越えている。


《用意は良いですね。ユウ》

「……うん」

清奈は、清奈
僕は、僕。
境遇も違う。
別人だ。

だが、僕がパルスや清奈に言われた、半分賭けに近いその方法は

仲間であるが故に出来る、一つの神秘だ。
出来るのか?
疑問にも上がらない。
僕は、心のどこかで確信できていたらしい。

「あばよ。屍を……俺様の前に晒せぇ!!」

その巨大な球が、
下がる。落ちる。
堕ちる!!
「来て」

清奈の声とほぼ同時に、
僕は……

清奈の体に、飛び込んだ。腕と腕が交わる。
左の剣と、右の銃。
そして体と体が重なりあう。
無機質、冷たい物体には決して有り得ない
優しい温もり。
そのまま僕と清奈は抱き合っている形となる。
清奈は目を閉じ、流れるのを待つ。
僕が、清奈の中に流す。
ありったけのパルスの力を。
ついに顔が、普段は決して無い所まで近づく。
近づいても、清奈は綺麗すぎた。
手は、力強く、優しく
清奈の中に筒みこまれる。戦場にあれど、
僅かな呼吸音が聞こえるまで近づいた僕と清奈。
心臓の鼓動も感じられそう。

そのまま……
僕と清奈は、清奈側に倒れこむ形になる。
一瞬の出来事のはずなのに、時間の流れはとってもゆっくり。
本当にゆっくりと
二人は倒れる。

「……行くよ」

それだけ……言った。
その瞬間。
僕がパルスと契約した時に見せた、深層心理が繋がりあった感覚がした。

僕と清奈が、今……。



巨大な球が僕達の所に落ちる。僕の背中で起こる爆発。
しかし、今はそれも音にならない。
染み込む。
清奈の中へと。
消えかけた火に、白銀の燭台で再びともされ、
少女は、立ち上がった。

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