第43章


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『おっと、ごめんよ、おいてけぼりにして。ボクってば気分が乗ってきちゃうと、
ついつい口が余計に回ちゃってさ。ぎらちーにもよく”言葉は重々しく扱うべきだ。
ことに我らのような者は。汝には少々自覚が足りぬ”だなーんて怒られちゃうの。
自分だって案外お喋りでひとの事言えないくせにさー。ボク堅苦しいのって苦手なんだよね。
いかにも気取ってむっつりしてるより、やっぱり色々お喋りした方が楽しいじゃない?
 君もあんまり喋る方じゃないみたいだけれど、溜め込むのってよくないよ。
何事も言わなきゃ伝わらないもの。中には言っても伝わらない頑固さんもいるけれどね。
……っとと、また、悪いクセだ。というわけで、今日は長々とボクのお話しに
付き合ってくれてありがとう。朝早くにわざわざ呼び出しちゃってゴメンよ。
何かお詫びもかねたお礼をしたいところだけれど、そうだなー、どうしよ。
あ、その怪我をホントに治してあげるーってのは……いやいや、ダメだ。定命の子に軽々しく
そういうことしちゃダメって、ぎらちーにきつーく言いつけられてるし……うーん、あ、そうだ!』
 ぽん、とミュウは手を打って、俺に背を向けて何やら尻尾の先を抱えてごそごそし始めた。
『はい、どうぞ』
 程なくしてこちらへと振り向き、ミュウは丁寧に畳まれた黒い布切れを俺に手渡す。
”これは?”
 何となく指先で布の手触りを確かめながら俺は訊ねた。表面には綺麗なツヤがあり、
すべすべしていながらも、ふんわりと心地よく体に馴染むような、とても不思議な感触だった。

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