第43章


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 ぐっと喉と胸が押し込まれるような感覚がして、俺は何も返す事が出来なかった。
 ミュウは煽り急かすようにぐいと俺に顔を寄せる。目の前に迫る澄み切った青い大きな瞳が、
今は深く広い湖にぽつねんと浮かんだボートの上から水の深淵を覗き見るかのように
末恐ろしく感じた。
『どうしたの、そんな顔して黙っちゃってさ。もしかして、友達がまだ戦わされてるって
知って驚いちゃった? まさか、そんな筈無いよね。本当は薄々そんな気がしていても、
知らない振りして、考えないようにして逃げていただけなんでしょ?
 そうだよねー、友達が泥と煙と血と汗にまみれながら生死の狭間を掻い潜り続けている横で、
自分は優しいひと達とかわいい子ども達とシスターちゃんに囲まれてぬくぬくと甘々に
暮らしているんだもん、とても顔向けなんてできないか。あーあ、友達もかわいそうに。
見る度に数も減っていって、残った子達もどんどん疲れ切っちゃっていってるみたい。
でも君は、その元凶が目の前にいるのに、何もすることも、言ってやることすらできないわけだ』
 ミュウは古傷を切って開きぐりぐりと抉るように更に俺を捲くし立てた。
”今更、こんな俺を責めて何になるっていうんだ。もうやめてくれ、もう沢山だ。
俺はただ村で静かに暮らしていきたいだけなんだ。部隊の者達の事だってどうしようもない。
今や日常生活を送るのが精一杯の身の俺には何も出来やしないだろう”
 耐え切れず懇願するように俺は情けなく震える声で言った。
『あ、怪我を盾にしちゃうの? だけどそれってば、ボクには通用しないんだな』
 言いながら、ミュウは短い三本指を銃みたいに構えて俺の額にこつんと押し当て、
『バンッ』

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