第43章


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 おとぎ話はこれにて閉幕と言わんばかりにミュウはわざとらしく格式ばったお辞儀をし、
顔を上げて、『参っちゃうよね、ホント』とぼそりと漏らした。その一瞬、ミュウの表情に
無邪気な子どもみたいな態度と顔つきには似つかわしくないどこか疲れきったような、
物悲しげな、仄暗い影が差した。
 傍らで俺は一体どういうつもりでミュウはこんな話をしたのかいまいち掴めなくて、
怪訝な顔をしていたことだろう。軍に指示する国を更に操る者達が居るという話が
虚偽でないとするならば、その者達の正体と目的を暗に示しているものだとは思うのだが、
ミュウ自らが『おとぎ話』と称したように、話に出てきた”王様”と呼ばれるものは
あまりに現実離れした存在のように思えた。
 最も俺達ポケモンだって人間からしてみれば、草むらに一歩踏み出せば程なく出会えるほど
身近に生息していて実際に触れ合えるからこそ確かに存在するものと認められるものの、
話に聞くだけで目にする機会が無かったとしたら、体から何万ボルトもの電気を放ったり、
口から数千度の炎を吹き出したり、腕で岩をクッキーみたいに砕いたりする生物だなんて、
とても現実離れした存在のように思うのかもしれない。
 だけれど、それを踏まえたって、件の”王様”とやらは、まったく何も無い状態から
有を創りだしたり、赤ん坊だった子が何十代も前のお爺さんになるくらいの年月が経っていても
健在していたり、国ごと民達を簡単に滅ぼしてしまったりと、あまりに途方も無い。

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