第43章


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 足元がぐにゃりと歪んでずるずるととろけ落ちていくような感覚だった。
俺はもう戦争とは無縁に生きていくんだ。この村の一員として暮らしていくんだ。
そう心に決めたのに。争いの火種たるものは、そのすぐ足元に潜んでいた。
……滑稽だよな。平穏への確固たる足場を一段ずつ積み上げて居たつもりが、
実際は海岸の波打ち際に建てられた砂の城の如く脆くて危ういものだったんだから。
波がちょいと指先を動かす程度にその気になれば瞬く間に崩されてしまう。
『それにさー、彼らったら諦めが悪くって困るよ。時々、ここの事がバレないように
抜け出して彼らをかく乱して回るのも結構大変なんだよね。まあ、彼らだけだったら
まだ大した事は無いんだけれど。問題はその更に後ろで手綱を握る者達の存在さ。
そうだ、君にひとつおとぎ話をしてあげる』
 そう唐突に言って、ミュウは『あー、ゴホン』ともったいぶった咳払いを一つした。
『昔々、それはそれは数え切れないほど大昔、ひとりの王様が居ました。
王様は生まれた時からひとりぼっちでした。それどころか、王様の周りには王様意外には、
火も、水も、草も、森も、土も、雲も、風も、光も、何一つ存在していなかったのです。
とても寂しくなった王様は、ある時三人の家来を自分の体から創り出しました。
王様には何にも無いところから何かを創り出せる不思議な力があったのです。
嬉しくなった王様は三人の家来に命じて、自分達が住むための庭を創らせました。
でも、その庭は四人だけで暮らすにはあまりにも広すぎるし殺風景過ぎます。
まだまだ寂しい王様は更に次々と家来を創りだしていきました。
家来達は様々な趣向を凝らしてどんどんと庭を彩っていき、ただ広いだけの殺風景な庭は、
いつしかひとつの立派な国となりました。

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