第43章


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 彼女は言葉の最後を濁して何やらくすくすと笑う。意味深な態度に俺は怪訝に首を傾げた。
〈今までこの場所のことを黙っていたのはごめんなさい。あの方も色々と訳ありみたいで、
牧師様の他にこの場所の事を知っている村の者は私とゾロアークだけなの〉
 隠し事をしていた事を彼女が謝る横で、そういえば前に教会内の案内をしてもらった時、
物置と酒蔵の方にはあまり触れてほしくはなさそうな態度だったのを俺はふと思い返した。
俺が酒をくすねるなんていらぬ心配をしての事だとその時は勝手に解釈していたが、
真の理由はこれだったのか。
”仕方ないさ。気にする事は無いよ”と俺は答えた。俺の身の上だって言わば”訳あり”、
軍のポケモンだった過去を隠し潜めて暮らしているんだ。彼女やその”あの方”とやらを
咎められるような立場じゃあない。
 階段を下りきって古ぼけた木製のドアの前に行き当たると、彼女はコンコンとドアをノックする。
返事こそ無かったがドアは待ち望んでいたように微かに開き、隙間からぼんやりと光の筋が漏れた。
〈この先の部屋で”あの方”はお待ちしておりますわ。私はもしかしたら子どもたちの誰かが
用を足しにでも早く起きてくるかもしれませんし――誰かさんが怖い本を読んでくれたおかげで、
きっと我慢したまま寝ちゃった子がいると思うんですよね――念のために先に上に戻っています。
お話が済んだ頃には迎えに参りますので、すみませんがこの先にはあなただけで行ってくださいな〉

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