第43章


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”ああ、いいよ”快く引き受けると、彼らは『やったあ!』と大層喜んで、俺の周りに集った。
そんな姿を見て、俺はクスと自然に笑みが零れた。まさか軍隊生活の副産物で身につけたものが、
あんな形で役に立つなんて思いもよらなかったよ。
 それからと言うもの、俺が子ども達に本を読み聞かせるのは毎日の習慣となって、
夕食前と食後に俺の周りにはポケモンの子達の輪ができた。
人間の子達はそんな俺達を微笑ましそうに見て――本当に俺達が文字を理解しているのではなくて、
何かまねごと遊びでもしているんだろうと思われていたのかもしれないが――
色々と自分達の本を貸してくれたよ。
 英雄の心躍る冒険譚、摩訶不思議な夢物語、世にも恐ろし怪談話。
色んな本を読み聞かせていると、子ども達だけでなく俺自身も多くを学んだ気がする。
美徳、理想、戒め――子ども向けの本は生きていく中で大切な様々なものが
どんなお話にも根底に流れていて伝えようとしていた。
 朝から夕方まで木の実の栽培に励み、夜は子ども達と触れ合って……。
何かを壊して、奪うんじゃあない。何かを育て、与える日々。穏やかで刺激は少ないが、
心はとても充実して満たされていた。余計な心配事なんて介在させぬ程に。
 とある日の事だ。
 日も昇らぬ早朝、まだベッドでまどろむ俺の部屋に出し抜けにノックの音が転がった。
驚いて飛び起きて、こんな時間に何だろうとぶつくさ文句を垂れながらドアを開けると、
いつもより真剣な面持ちをした彼女が小さな電球片手――懐中電灯の本体が無くても、
俺と彼女なら自前の電気で光らせられる――に立っていた。


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