第43章


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 翌日、俺は彼女に自分にも何か出来る事はないかとそれとなく打ち明けた。
お気兼ねなくゆっくり過ごしてくれていていいんですよ、だなんて彼女は優しく言ってくれたが、
俺としては一刻も早く何か打ち込めるものが欲しかった。歩行訓練に励んでいた時のように
また何か忙しく没頭出来るものがあれば、それに集中している間は他に何も考えずにいられる。
部隊の事を思い返すことも、言い知れない不安や恐れを抱くことも無いだろうってね。
 日々を悶々とただ過ごす俺のもとに、ある日、筋骨隆々とした人型のポケモンが訪ねてきた。
前にも一度、確か初めて村内を彼女と共に出歩いた時に会ったドテッコツの爺さんだ。
『おう、あんちゃん。体の具合はどうだい?』
 俺の姿を見て、ドテッコツ爺さんはにっかりと豪快な笑みを浮かべた。
 おかげさまで順調に回復していると挨拶を返しつつ、急に訪ねてこられるような覚えが無くて
一体俺に何の用だろうと内心首を傾げた。
『悪ガキ共が騒いどったぞ。何でもおめえさん、ひでえ怪我しただけじゃあなく、
記憶まで無くしとるんだと? おめえさんも若いってえのに苦労人だねえ。
きっとその前からも随分とまあ難儀してきたんだろう。そういうヤツぁツラ構えからして違うのよ』
 うんうんと頷いて、ドテッコツ爺さんは同情して労うように言った。
”は、はあ”と困惑しながらも、俺はとりあえず話を合わせて頷き返した。
その場限りの嘘だった筈が何だか随分と吹聴されてしまっているようだ。
『おっと、いかんいかん。そんなことだけを言いに来たわけじゃあない。シスター嬢ちゃんに聞いたよ。
何でもおめえさん、働き口を探しとるんだって? 大変な目にあったばかりというのに、殊勝だねえ。
益々気に入った。どうだい、良けりゃうちの木の実園に手伝いに来んか? 楽な仕事じゃあ無いが、
怪我のこともあることだしそんな無理はさせんよ』


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