第43章


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 全員席へと着き、食事が始まってしばらく経つと、右隣から『なーなー』と声をかけられた。
ぎくり、と俺は黙々と料理を口に運ぶ手を止めた。彼女のそれはそれはもう粋な計らいにより、
俺と彼女の席はポケモンの子達と同じ列のちょうど真ん中に配置されていた。
 子どもと接する機会なんて皆無に近かった当時の俺には、
彼らは全く未知の生命体みたいに感じられた。傍から様子を窺っていても、次の瞬間には何を考え、
何を言い、何をしでかすのかまるで予想がつかない。初接触時に強烈な勢いで迫られたことも、
そんな印象を根強くさせていた。
 ゆっくりと声の方へと振り向くと、頭でっかちの黄色いトカゲのような子ポケモンが
好奇心に輝く目で俺を見ていた。この後、一体どんな言葉が砲弾の如く飛び出してくるのか
まるで予想がつかなくて、俺はオクタン達――蛸墨のみならず、水流に怪光線、
機関銃のような威力のタネや岩、果てには炎まで口から吹き出す、手品師もびっくりの化け蛸だ――
に十字砲火を浴びせられる寸前のような嫌な汗が微かに滲んだ。
すぐさま席を立って床に伏せ、安全地帯に転がり込んでしまいたい衝動が沸き起こるが、
左隣からそっと促すように彼女に尻尾でつつかれ、仕方なく俺は腹を括った。
”なに、かな?”恐る恐る、でもそれを悟られぬように俺は問い返した。
『にーちゃんって、ここに来るまえはどこで暮らしてたんだー?』

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