第43章


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 いざ正面扉を押し開けて差し込んできた日の光に、思わず俺は後ずさってしまった。
窓越しではなく直接全身に浴びる太陽の光は随分と久しぶりで何だか痛烈に感じられた。
日差しに怯んでしまうなんて本当に悪魔か何かみたいだ、やり場の無い苦笑が漏れた。
〈ほらほら、何やってるんですか。早く行きましょ〉
”む……”
 彼女はもたつく俺の手を取り、くいと外へと引っ張り出した。目映い光が全身を包み、
穏やかで清涼な空気が頬を撫でた。目蓋をしぱしぱさせている内に徐々に目は光に慣れていき、
古ぼけた石畳の細い道とその両脇に広がる素朴ながら手入れされた芝生の庭が映った。
 その庭できゃいきゃいと賑やかにボールを追い掛け回している数人と数匹の子ども達の姿を見付けた。
子ども達もすぐに俺と彼女に気付き、立ち止まって顔を見合わせ……その後は例えるならば、
とある一人の少年が美味しそうな焼き立てのポップコーンが入ったカップを無防備に抱え、
腹を空かせたマメパト達が屯する公園にうっかり足を踏み入れてしまった、そんな状況を想像してくれ。
好奇心に目を輝かせた彼らの波に押し寄せられ、瞬く間に俺は取り囲まれてしまっていた。
あんなに素早く包囲されたのは、鉄の結束と外殻を誇る脅威の軍隊蟻アイアント達と戦って以来だ。
 俺はその勢いにただただ気圧され、輪の中心でどうしていいかもわからず唖然と佇んでいた。


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