第43章


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 己の所業を悔いて死ぬくらいであれば、犠牲になったものの分まで生きて償え。
彼女は己の境遇になぞらえて言外に言った。
 その時の俺に彼女の言葉はとても酷なものに響いた。
ただでさえ一生涯背負っていくには押し潰されそうなほど重く、苦しいというのに、
その荷を積まれる我が身は生まれたばかりのシキジカよりも弱弱しく、
ろくに歩みもおぼつか無い無能の身だ。
”無理だ、無茶だ、出来っこない。最早こんな身で生き長らえたって、
誰の助けにもなれはしないだろう。何の意味も価値も無い、寧ろ負担となるだけ。
ならば死んでしまった方がマシだ。いっそ殺せ、殺してくれ……”
 俺は頭を抱えて耳を畳み、駄々をこねる様に首を横にふるって叫んだ。
閉じた眼の裏からじわりと情けない熱が滲む。
まるで子どもみたいに泣きじゃくる俺を前に、彼女は毅然と構えて一息吸った。
〈そんなにいらないって言うのなら、その命、私が貰います!〉
 びしりと一喝するように彼女は言った。びくりと俺は顔を上げた。

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