第43章


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”知っていたなら、どうして……君は全く俺を怖がっていなかっただろう”
 信じられない、と愕然として俺は問い返した。
〈逃げ遅れ、トラックに積み込まれる寸前まで私にも少し意識はありました。
そこで次々と他の逃げ遅れた方々を運んでいく兵隊さん達と、
一緒にいるあなたの姿がぼんやりと目に入っていました。その時、すぐにピンと来たんです。
あれが噂の『黄色い悪魔』だと。再び目覚めた時、そのあなたが目の前にいてすごく驚いたし、
とても怖かった。でもね、次の瞬間にはそんな気持ち、跡形も無く吹っ飛んじゃいました〉
 俺の恐ろしげな噂は兼々聞いてはいたが、実際に目の当たりにしたら恐れは沸いて来なかった、
彼女はそんな風に言って、クスと笑った。
〈時々ね、ここに住むやんちゃな子達が、危ないから行っちゃ駄目っていつも言ってるんだけど、
大人達の目を盗んで近所の森の奥に探検って称して遊びに行っちゃうんです。
普段はちゃんとバレない様に帰ってきているみたいだけれど、その時は奥まで行き過ぎたみたいで、
中々帰ってこないあの子達をみんなで探しました。やっと見つかった時のあの子達いったらもう……
日ごろの強がりで意地っ張りな素振りが嘘みたいに、みんな寂しそうで頼りなげな目をして
わんわん泣きじゃくっちゃって、私までつられちゃいました。
 あなたの目を間近で見て、あの時のあの子達の目にとても似ているなって思ったんです。
寂しく儚げで何かに迷っているような目。スカーさん達にも似たものを感じました。
そう思った途端、なんだかまるで怖く無くなったの。そっか、このひと達も同じなんだなって〉


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