第43章


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”今度は俺が囚われの身というわけか、くっくっ……”
 なすすべなくベッドに這い蹲って俺は自嘲めいた苦い笑いを漏らした。
俺の姿に彼女はやりきれないように深く俯いた。
 しばらくして決心した様子で彼女は小さく息を吸い込み、目元をそっと拭って顔を上げた。
〈あなたが目覚められたことを牧師様にお伝えして来ます。それから、軽いお食事の用意を。
あまり食欲はわかないと思うけれど、少しでも栄養を取っていかないと弱るばかりですもの〉
 気丈に彼女は微笑んで、牧師に俺が目覚めたことの報告と、
軽い食事の用意をしてくると部屋を出て行った。
 少しして、コンコンとドアがノックされ、
『やあ、具合はどうかな?』
 黒い独特の装束に身を包んだ人間の男、年齢は三十台半ば頃といった具合だったろうか、
が気さくな様子で俺に声掛けて部屋へと入ってきた。俺は警戒するが、身動き一つ取れない。
男は茶色いバッグを片手に傍まで来ると、くいと丸眼鏡を指で上げ直して俺の顔を覗きこんだ。
『うん、目を覚ましてくれたようでよかったよ。うちの子が大慌てで君を運んできた時は、
本当に危険な状態だったからね』
 それから男はまるで子どもにでも語りかけるみたいに穏やかな調子で
ポケモンである俺に語りかけてきた。人間にそんな対応をされるのはそれまで初めてで、
なんとなく呆気に取られた。と同時に、これが彼女の言っていた牧師か、とピンと来た。


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