第43章


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<彼の決意に私は乗り気ではありませんでした。彼が危険に晒されるかもしれないという心配も
当然ありましたが、それ以上に彼からひしひしと仄暗い、それでいて激しい感情を感じたんです>
 村への報恩とはまた別に、まるで仕込み刀のようにゾロアークはかつて故郷を奪った者、
更に歪んで軍に属する者達全てへの復讐心を抱いていた。
<彼の決意は固く、私の言葉では止められはしませんでした。大切なものを奪われた怒り、
憤り、悲しみは抑えようとも抑えきれず、またいつまでも晴れないものだというのは、
心苦しいながら私にも理解できます。でも彼が怒りに駆られたまま無作為に兵隊さんを
殺めてしまっては、その仲間の方々が彼を許しはしないでしょう。そこでまた彼が殺されれば、
村の方々も私も嘆き、憤慨し――復讐はたちの悪い伝染病のように次々と伝播していってしまう>
 番人になることは止められはしなかったものの、彼女はもしも軍隊や悪意ある者が
村に近付いてこようとしていても、決して殺すことや大怪我を負わせることをしないように
ゾロアークを説得した。はずだった。
<分かってくれたものだと思っていたのに……あなたをこんな目に合わせてしまった。
彼の激情への認識が甘かった、全部私のせいです……>
 ゾロアークも当初の内は彼女に言われた通りに村に近づく者があっても、
極力傷はつけずに幻影の力だけで追い払っていたのだろう。だが、今回ばかりは事情が違った。
ゾロアークからしてみれば、突然の落雷に燃える森――軍が何かしら関与しているであろう事は
想像に難くなかっただろうし、故郷を追われた時の悪夢がありありと思い起こされたことだろう
――に兄妹同然に育った彼女が駆けつけていってしまったまま、
長い間行方不明になってしまっていたのだ。燻っていた復讐心が吹き起こされ、
更に油を注がれたように燃え上がってしまっても無理はない。


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