〜第4章〜 黒の男


[55]2012年6月19日 午後7時56分


重い頭痛が突発的に起こった。
また、誰か来る……来る……来る……!!

「新手です!」

まだ……いたのか? ネブラが……!

これまで感じたことのない魔力の流れ。

「……っ!」

息を吸うような、声。

「ハレン……どうした?」

「相沢くん……伏せて!!」

その言葉にとっさに反応し、体の体勢を低くする。

刹那――

何かが駆け抜けた。

「ドリフト!」

ハレンの青い杖から飛び出したかまいたち。
突風で現れた何者かを両断するが、当たることはなくバスの停留所が折れた。

《ユウ、来ます!》

喉元をえぐる斬撃……!

「あぶなっ!」

すぐさま足で前方に蹴って回避し、ライボルトで狙いを定める。
銃弾が避けられ、その何かは僕に更なる剣撃を与える。

時間を先行している僕ならかわすことはできる。
だが、その剣撃は確実に死点を払っている。油断すれば即死だ。
僕は左手を振り上げた僅かな隙に

「だぁっ!」

左足で蹴りを入れた。
その足は空を舞う。
奴は上に飛び前方に宙返り、僕の頭にかかとを落としてきたのを

《リフレ フォール アルファ!》
「……効かん」

男の声だ。

「効かな……!」

頭に衝撃。
首筋と肩の付け根辺りにかかとを叩きつけられた。

「っ……か……!」

思わず肩を押さえる。

「次はその肩を、粉ごなに砕く。それが嫌なら、おとなしくしろ」

誰だ……?

目の前に現れたのは少年だった。

左目に大きな古傷があり、右の頬にも同様の切傷がある。銀髪に青の瞳だ。
手に武器は無い。
彼の武器は足にある。

青銅色に光る、鋭い爪のついたブーツ。

「余計なことまで喋りやがって、戻れ。シヅキ様がお呼びだ」
「お父さんが?」
「来い」

その少年は僕達の存在を無視し、去ろうとした。

「誰だ……!」

彼もネブラだ。
やはり来たのは、新手……!

「生憎、弱者に名乗る名など無い。狩られるものらしい態度をわきまえろ」
「なんだと……!!」

だが、彼はそれを言うのに見合った強さであることは僕も分かる。


目の前にいた銀髪の男は、瞳がどこまでも清んでいる。そしてそれは、そのブーツと共鳴するかのごとく、清涼な雲海を象っている。だが、そんな姿を纏っていながら、眼光は氷柱を思わせる鋭さだ。


「お前も、鍵を狙いに来たんだな!」

ライボルトに再び手をかけ、いつでも戦闘に入れるよう精神を集中させる。
「……俺と殺りあおうというのか、ふん……面白いことを言う奴だ。まあ、ここでヘマをして死んだって次は無いんだがな」

こいつ、僕を挑発してやがる。

「相沢悠、か……。俺から一つ言わせてもらう」

彼が指を鳴らすと、彼とあの女の子を包みこむように水色の宝石が現れる。
彼は、なにからなにまで、青いのだ。

「そのタイムトーキーは貴様のものではない、せいぜい持ち主が必死に探し始める前に、然るべき場所に戻すことだな」
「お前も……シヅキを!」「そう、俺はソディアック第4節、青く黒き渚……相沢悠、貴様を消すためだけに生まれた者だ」

僕を……消すだって……!ついにシヅキらネブラも僕の存在を疎ましく思ってきたということか。

「今回は、名残惜しいが去ってやる。あの愚か者に裁きを与えなくてはならないからな」

愚か者……?

「ウィズさん!!」

ハレンがその名を大きく叫んだ。

「ツクヨミを逃がしたその罪は大きい、酌量など誰が求めるだろうね、あの無口の嫌われ者に」

なんでだ……!
あいつは、正しいことをしただけじゃないか。
それを裁くだって……!
なんで正しいことをした人間が裁かれなきゃならないんだ!

「待て」

その青と闇に満ちた少年に告げた。

「世界をお前達の好きにはさせない。僕は、お前達を必ず倒す、生き残ってみせる」
「それがどうした」

僕はその子の目と目をはっきり見据えて言った。固い意志を胸に宿らせて。清奈と決闘を申し込んだ時と何も変わらない、そのうちなる情熱を灯して。

「次戦った時が、お前の最期だ」

男は、不敵な笑みを浮かべうっすらと消えていく。
まるで僕達の未来を予言しているかのように。

ただ嘲笑うように。

破壊の限りを尽した五月原のバスターミナルに、まもなく死闘の極地に向かうバスが止まる。
乗り換え先も、どこに停まってどこで降りるかも選びようがない。
もう、後戻りはできなくなった。
後はそのまま闇の底まで潜り込んでいけ。

それだけだ。

ただ

それだけだった。


――――――――――――

《戦闘システム起動。殲滅レベル最高》

ガシャ……という機械音。紫色の小さな要塞がうごめく。左手にはマシンガンが装備され、右手には赤く光るレーザーガン。

ここは無刻空間。

時間の輪廻の外側。
時間というベルトコンベアから降りた所に位置する、存在しないようで存在する世界。

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