〜第4章〜 黒の男


[52]2012年6月19日 午後7時34分


ツクヨミはその台詞を残し、垂直に飛び上がったかと思うと、そのまま消え去った。
偶然だろうか。
ツクヨミが丁度消えた所に満月が浮かんでいた。
いつのまにか梅雨は止んでいたらしい。
月を歌に詠めるような、美しい姿。それは思わず息を飲むような趣き深い姿だった。

チリン……

上から何かが降ってきた。それは赤い鍵だった。

「これは、清奈の体内に宿っていたシヅキ復活に必要な鍵の一つです」

ウィズという少年はメカから降り、その鍵を僕に渡した。

「清奈の体の上に置けば、再び宿ります。どうぞ」
「ありがとう、ウィズ。君は……悪いネブラじゃ、無いんだね」
「それは、どうも」

再び乗り込んだ。

「鍵は長峰清奈の体内、そしてあなた、相沢悠の体内にあります」
「僕の中にも?」
「はい、そうです。あと1つの場所は不明です。3つ集めれば、シヅキが復活する。ですから、今後鍵を狙ってあなたたちタイムトラベラーを狩ろうと沢山のネブラがやってくるでしょう。ですが、私はあなた達が必ずや、シヅキを操る真の闇を倒すことが出来ると信じています。どうぞ」
「……分かった、ありがとうウィズ」
「礼には及びません」
「では……」

そしてそのウィズも、去っていった。去り際はとてもあっけなかったが、ツクヨミとウィズ、その二人の名は確実に僕の中で刻まれた。


僕は鍵を持って清奈を探していた。見つけることは容易だった。

「清奈!!」

駆け寄る。
全身に傷を受けている。
息も僅かながらしているが、すぐに手当てをしなければ清奈の命が……!

「相沢くん!!」

ここで聞き覚えのある声がした。

「ハレン! ここだ!」
「相沢くん、凄いです! 重層構造を元に戻すなんて。それに……ツクヨミさんも」
「見てたのか?」
「パソコンごしで見てました。ネブラを改心させちゃうなんて、相沢くんにしか出来ませんよ!」
「そうかな……はは。っと笑ってる場合じゃない。清奈を助けないと!」
「わたしの治癒能力じゃ……先輩は……」
「ハレンじゃ……足りないのか……」

くそっ!
ツクヨミは救われたかどうか知らないが、清奈が助からなければ僕が何のために戦ったか分からない。

「どうしたら……!」
「大丈夫だよ」







空から声がした。

「誰だ……?」

いや、あの声は
あの子だ。

満月から降りてきたようにゆっくりと着地して現れた紫のオーバーオールのネブラ。

「君は……有山の時にいた……!」
「覚えていてくれたんだ、お兄ちゃん」

嬉しそうに笑う目の前の女の子。

その子の手が清奈の体に触れると、たちまち傷が消えていく……。

「凄い魔力の量です……!」

僕も分かる。
ネブラなのに、まるでタイムトラベラーのような優しい流れ。

っ……!?

「どうしたの?」

首を傾げた女の子。

「いや、何でもない」

今、この子を見ていたら
イクジスの笑顔が見えた。

「これでお姉ちゃんは大丈夫だよ。後はその鍵を中に宿せばお姉ちゃんは目が覚めるよ」
「ありがとう、優しいんですね」

ハレンが笑顔を浮かべたので、彼女もまた微笑んだ。

「ねえ」

僕はあることを確信した後、その子に聞いた。

「僕が、知らないことを喋ったのは、もしかして君の……?」
「うん!」
「じゃあ、僕が、覚醒したのも」
「あ〜、それは違うよ。それはお姉ちゃんがよく知ってるはずだから、後で聞けばいいと思うな」

最後に、僕は肝心なことを聞いた。

「君は……何者なんだ?」

その女の子は、少し驚いた様子を見せて言った

「あたしはね……」

口を開いたその直後。
地響きが起こった。
僕らのいる灰色のコンクリートの大地が所々で割れ始め、直ちに大きな溝が現れ始める。

既にハレンはパソコンを開けていた。その画面に移るレーダーに、巨大な黒い影が映っている。

「ネブラです。まだ残っていたようですね」

ハレンの右手に風を操るあの青い杖が現れた。
僕も気配を感じ立ち上がった。
その感覚で相手を理解した僕は、ゆっくりとそのネブラがいる方向へと足を進める。

「相沢くん!」

ハレンの心配そうな声を耳にする。オーバーオールの女の子は何が起こるのか分かっていないのか、ハレンの側に寄りついていた。

「ハレンはその子を守って。このネブラは僕が倒す」

手に持っていた赤い鍵をハレンに渡し、ライボルトの銃口を向ける。

《ユウ。大丈夫ですか?》「大丈夫。自分の身を全く心配していない僕がいるなんて、なんだか不思議だって思うぐらいだから」
《ならば、私は何も言いません。ユウが戦うのを、私も全力でサポートしましょう》

地面が巨人で叩かれて振動が足に伝わる。確実に近づいている。

「……よぉ」

まだ倒しきれていなかったらしい。


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