〜第4章〜 黒の男


[45]2012年6月19日 午後6時50分


顔を見ても、死ぬ一瞬まで泣き続けていたことが分かる。

「ちくしょ……! あいつら……!」

犠牲者はこの子だけじゃない。
辺りが暗くて分かりづらいが、かなり多くの人間がいる。

凄惨な死のカタチがそこにあった。


目がなんとか慣れてきた。手探りで前へ進む。
なんだったのかよく分からないガラクタの山をかきわけて進む。
出口はこの先のはずだ……。


地震が来たように地が揺れた。上にロープ一本で吊らされた看板が左右に動く。
「今のは……」

《ネブラです。外から強烈な気配を感じます。敵は近い……》

深呼吸をした。
中に入ってくる空気は(すす)が混ざっているように濁っている。
心を落ち着け、自分が最大集中するのを暗示をかけるように何度も頭の中で反芻する。

落ち着け……落ち着け……

風が僕の頬に伝わる。
もう外へは10メートルも無い。
雨の音も聞こえる。
目の前にいる。

そして外へとあと一歩で出るところで、

爆発音。
男の断末魔。

すぐに聞こえた方を見た。

闇に紛れてシルエットしか見えない。
山のような物体。
それは決してガラクタでは無かった。

太い腕がここに向かってくる。

「くっ!!」
見てから避けることはできた。僕がいた場所がグチャグチャになる。間違いなく目の前にいるのが、この惨劇の首謀者……!!

「パルス、光を」

僕の左手が光ったと思うと、光球が現れる。
それが目の前にいる巨体を照らす。

その山は顔を持っていた。笑っている。

「……!!」

僕は巨体に銃撃を与えようと、撃ち放す。

しかしそれは

「フハハハハ!! もう少しまともな攻撃ができないのか? クズ」

効いてない……!!
途方もなく大きなダイヤモンドと戦っているかのようだ。
しかし、目の前にいるのはダイヤには全く似つかない醜悪さを身につける。

「タイムトラベラーか。はなはだ遺憾……ゴミと殺りあう程俺も落ちぶれたのか? クハハハハハハ!」

目の前にいる奴が何か叫んでいるが、それは聞こえない。

こんなときこそ、僕が頑張る番だ。
こんなとき、清奈ならどうするだろう……。
どうやってこいつと戦う?

《ユウ!!》

目の前を見ると、既に破壊し尽されたタクシーが持ち上げられている。


豪速と呼べるスピードで飛んでくる!

《リフレ フォール!》

うまくシールドが展開され、直撃は免れた。
僕は猛スピードでその場から逃げる。

奴なら僕を殺そうとついてくるはずだ。
今僕に出来ることは相手の虚を突くことぐらいだ。
清奈と戦った時と同じように。

幸か不幸か、あのネブラが破壊しつくしたので隠れる所は沢山ある。

相手は図体が大きい。
だから清奈よりずっと攻撃しやすいはずだ……。


再び駅の構内へと入る。
奴の体ではここに入るのは容易じゃない。

しかし、それは誤算だった。

奴が来た途端、入り口から手を入れて、無理矢理壁を破壊し、侵入スペースを作りだしたのだ。
奴にとってコンクリートの壁は障害になりえない。

轟音が僕に向かってくるのがよく分かる。

「どうしたら……」

《ユウ、上を見てください》

「え?」

見たのは、紐一本が吊された巨大な広告の看板。
3枚あるものが複雑に絡みあったせいで、1つに固まっている。

「あれなら……!!」

と、言った途端に

《来ます!!》

パルスの言葉を聞き、即座に左へ転がる。

その瞬間、僕を握り潰さんと現れた太い筋肉質な腕が伸びてきた。
一般人でも感じとることができるほど強い気配だったから、僕でも避けるのに問題は無かった。
ぽっかりと壁に空いた穴から腕が突き出て、引っ込んだ。
その間に僕は、側にある階段を少し登る。
ここならいける!


腕で空いた穴から、更にこじ開け、あいつが入ってきた。

「見つけたぁぁぁぁっ!!」

叫んで僕を掴もうとした瞬間。

一瞬で銃口を標的に向ける。その標的は、看板が吊されている細いロープ。

僕が奴の手に触れかけた所で、その手が消えた。

当たった!

《うまくいきましたね!》

ネブラのいる位置、タイミング、全て完璧だ。

巨大看板が落下し、ネブラがそれの下敷になる。

《止めをさしましょう!》

僕はすぐさまネブラに向ける。

「うおおぉぉぉぉぉ!!」

雄叫びと共に看板を吹っ飛ばしたネブラ。
その瞬間を狙い、僕は……!

「今だ!」

ライボルトに力が収束する。その感覚は僕でも感じることは容易。この閃光で、ダイヤモンドでも砕いてみせるーー

《ライト……》

白銀の銃、そして現れる黄金の光線!!

《プリンガー!!》

その威力は僕でも見間違えてしまう程だ。
僕自身も吹っ飛ばされそうな強い衝撃が体に流れる。それを堪えた。

これ以上ない手応えだ。
これで、倒したか……?

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