〜第4章〜 黒の男


[44]2012年6月19日 午後6時45分


肝心なものが抜けていることに気づく。
いなくてはならないものが、いない。

「清奈?」

時の間を駆け抜ける。

「ハレン?」

本棚と本棚の間全てを探すが結果は変わらない。

「どこにいるんだよ?」

《セイナとハレンの気配が感じられません。ということは近くにはいないということでしょう》

「な、なんでだよ?」

《こればかりは私も……しかし、まずいことになりました。恐らく私達は……》


――――――――――――
目を開ける。
早速時の間から抜けようと出口に向かおうとして、気づいた。

「……?」

いない。
二人がいない。

「……あいつ、こんな時にふざけるのもいいかげんにしてよね……!」

《否、セイナ、これは……》

「なによ、フェルミ」

《この辺りに、ユウとハレンの気配が感じられん》

「先に出たとか?」

《そう我も思ったのだが、どうも違うらしい。この時間帯にいるタイムトラベラーは、唯一お前だけだ》

「……?」

訳が分からない。
取得したコードを間違えた?
いや、3人がそれぞれ別のコードを打ったのは考えにくい。それに私は、少なくとも悠が打ったコードは確認したのだ。
でも、悠はここにいない。
ハレンもだ。コードは確認していないが、そんな初歩的なミスをするような奴じゃない。

「まさか……」

罠?

「フェルミ、今のこの時間、よく調べて。時間が重層構造になってる可能性がある」

《……かもしれんな。しかし、このような芸当をするとは、相手は相当危険な連中だな》

「そうね」

悠も、ハレンも、今【同じ時間帯】にいながら【別の世界】にいる。

時間の重層構造……

それは、この世に一つしかないはずの時間を複製するということ。

私たちタイムトラベラーは全員間違いなく2012年6月19日 午後6時37分に飛んだ。

でも、3つに複製された時間に1人ずつ別々の場所に飛んだ、いや、飛ばされたらしい。

つまりは……

この世界に、2012年6月19日 午後6時37分が3つ存在している、その3つに、それぞれ1人いる。

更に端的に言えば

「くそっ……!」

はめられた。

つまりは、私達3人が

引き離されたのだ――


外に出た。
まだ罠から抜け出るチャンスは無いこともない。
時間が複製されたのなら、2つはダミーで1つはオリジナルのはず。

私がいるこの時間がダミーなら、どこかに映し間違いの綻びがあるはず。
それがなければ……私だけでやるしかない。





「成功したようですね、どうぞ」

「相変わらずの天才ぶりやな、あの3人は集まると危険やけど、個々をバラバラにすればずっと戦いやすくなる。ハレンのパソコンをバレずにハッキングしたり、時間を複製したり……下手なソディアックよりよっぽど使えるな、あんさん」

「それは、どうも……それでは私達も行動を始めますか……」

白き長髪が動く。
空に浮かぶ白い刺槍のよう。
それは、まるで生きているよう。
華麗に伸びる白髪、双刀。

「うちは必ず清奈を倒す、あの方の復活の為なんやったら……!」

目的は紛れもなく
全ては
シヅキの為に……。




――――――――――――

「パルス。それってつまり、ここには清奈もハレンもいないってことなのか!?」

《恐らくそうでしょう。時間を複製して私達を引き裂いたのでしょう。ですから……》

一人でやるしかない。
あの、駅の惨状を起こしたネブラと僕とで、一騎討ち。

勝てるのか……?

《そんなこと、疑問にしてどうするんですか?》

「え……」

《前に私は言いました。真に強い者は、自分の力が弱いことを知る人間です》

「……でも、さ」

《自分が弱いことをよく知っているからこそ、ユウは修行を重ねて、果敢にセイナと戦ったじゃないですか》

……まあ、逃げてばかりだったけどな。

《そんなこと関係ありません。私は、ユウが強くなりたいと思ってくれただけでもとても嬉しいのですから》







《ユウは、この一ヶ月で確実に変わりました。自覚していないだけです。
ユウはもはや、弱い人間じゃありません》

どうかしてるな、自分。
僕は、パルスの言葉を信じてみようと思っていた。
いろんな物が吹っ飛んだ感覚だ。
どちらにしろ、僕はもう後戻りできない。

ならどうする?

目の前の敵を全力で倒すだけだ。








エレベーターが上へ向かう。

その中でバトルモードになった僕。

到着。
扉が開いて見えるのは闇。
今は夜だからなのかもしれない。
電灯がことごとく破壊され、申し分程度に非常灯がついている。2007年と何の違いもない。
いや……違いはあった。

「う……わ……!!」

死んでいるのか……?
まだ幼い女の子がいる。
肩まで伸びた栗色のセミロングの子。

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