〜第4章〜 黒の男


[43]2012年6月19日 午後6時37分


「……出ました」

ハレンがブラインドタッチで素早くパソコンに文字を打ち込み、すぐに時間を割り出した。

「2012年6月19日、午後6時45分です」

「決まり。ちょうど5年後ね。確か改札の辺りに時の間があったはず。フェルミ、場所はどこだっけ?」

《改札横エレベーターだ》

「今回は未来へ飛ぶのか、清奈」

「そうね。ネブラの襲撃は過去とは限らないから」

「よし、じゃあ早速向かうぞ!」

僕が真っ先に走り始めた。

「随分と元気ね」

「気合いが入ってるんですよ」

ハレンがいつものパ〜ッとした笑みを溢したのを僅かに目にして、僕はエレベーターに向かった。



「先輩、戦いを示す……その言葉を聞くのも、なんだか懐かしいですね」

「……悠なら」

「え?」

「悠なら示せるわ」

「……ですよね、だって、相沢くんですもの」

「かといって、私はまだあいつが仲間とは思ってない。認識を改めるにはまだ悠は優しすぎる」

「強いですよ、相沢くんは」

「……そう」


エレベーターの前についた。改札横だから、きっとここだろう。
駅の中もひどい荒らされようだ。
ベンチや電工掲示板が散乱し、照明がついたり消えたりしていて、一部では非常灯がついている。
非常ベルが鳴り響いて鼓膜を無理矢理震動させている。

「パルス、ここだな?」

《ええ、間違いありません》

エレベーターの電源は落ちていなかった。上矢印のボタンを押すと、軋む音を立てながらゆっくりと扉が開いた。

清奈とハレンも続けてやってきて、エレベーターに乗り込む。

「悠、ちょっとどいて」

清奈はエレベーターの操作ボタンを

3階 6階 4階 2階 5階 1階と押して

ドアの開くボタンと閉じるボタンを同時に押す。

「不可視空間、開放」

すると扉が閉まった後、

乗り込んだ階は1階のはずなのに下へとエレベーターが動き始める。

随分長い時間下へと入ったと思う。

【認証完了】

エレベーターからアナウンス音が聞こえ、ゆっくりと開いた先は毎度お馴染の時の間、山のような本の部屋が広がっていた。




タイムトーキーがコードを探しているあいだ、清奈は言う。

「今回の襲撃はかなり強いのが来るはずだわ。2人とも、心の準備はいいわね?」

「分かってます、先輩」

「強いって、どのくらい?」
「そうね、少なくともサーベルよりは厄介になりそう。しかも相手は重力使いとなると……かなり期待できそうだわ」

「期待?」

「決まってるでしょ。シヅキのことを吐いてもらうわ。そして奴に近づく」

……清奈は知らない。
シヅキ=イクジスという憶測が、正しいかもしれないということを。

あのフェルミと話をしたときに、僕はイクジスの情報を知った。だから、僕はイクジスのことを清奈よりよく知っているのだ。

イクジスと、シヅキは同一人物の可能性が非常に高い。いや、僕は断定する。

清奈は記憶を書き換えられ、【イクジス】は知っていても【シヅキ】は知らない。一応別人と考えている。
だけど、それは違う。
僕はそう直感する。

《セイナ自身は、イクジスは二人のタイムトラベラーによって滅ぼされたものの、また復活したと考えている。そしてシヅキのこともまたグルームの口から、滅ぼされたが復活したと聞かされている。この瞬間、我はイクジスとシヅキが繋がってしまったと感じた。そして当然、清奈もそう思うはずなのだが……》


清奈は、気づいていない。
馬鹿な。
清奈は僕の数倍賢いはずだ。普通気づくはずなんだ。

「どうしたの、悠。うつむいたりして」

「ん……ああ、ごめん」








「なあ、清奈」

「なに?」

「今度は無理強いしないから……答えてくれ、嫌ならいいけど」

「……」

清奈は何も言わない。
僕はそれを肯定と捉えた。

「イクジスは……今どこに?」

「……あいつは、一度は封印されたけど、永遠の命を持ってる。だから決して死んでない。分かることはそれだけよ」

「じゃあシヅキって……」

「さあ? そう考えられるかもしれないわね」

……僕の言いたいことを、既に清奈は理解していた。

「でも、あくまでも憶測でしょ? シヅキがイクジスだなんてこと、確証できないじゃない」

「確証ができたら?」
「潰すまでよ」

即答した。


「先輩……」


もう、そう遠くない未来に
イクジスと、戦うことになりそうだ……。








2012年 6月19日 午後6時35分……

到着した。
未だに時間移動には慣れない。ジェットコースターに乗りたくないのに無理矢理乗せているようなものだ。

「あ、れ?」






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