〜第4章〜 黒の男


[39]6月19日 4時39分


まだ清奈は気づいていない。

「パルス、まだ悠は目が覚めそうにない?」

「そのようですね……まだ一向に……」

そう、パルス、ナイスフォロー。
冗談が通じるタイムトーキーで良かった。

「ああ……もう……」

再び呪文を唱え始める。
よし、そろそろいいだろう。


「う……く……うああっ!」

「ゆ……悠!?」

僕は、とても苦しそうな声を出し、体を縮めた(勿論、演技だ)

「か……は……はー……うああああっ!」

見ててバレバレの演技だ。役者でも『苦しむ』というのを演じるは非常に難しい。
だから、清奈はすぐ気づくと思ったのだが。

「ちょ……ちょっと、パルス! どうなってるの!?」

ちょっと薄目を開けて様子を見てみる。
うわ……!
清奈の声もさることながら、凄く焦ってるぞ!?
いつも冷静な清奈が……あんな顔初めて見たぞ?

《……分かりません。不測の事態ですね……》

嘘つけ、パルス。
ははは!!

「そんな……なんで、こんなに」

「ああああっ!!」

「悠……! 聞こえる!?
くそ……どうしたら……?」

途方に暮れている。
うわ、何か見ててオモローだわ。

《セイナ、一つ方法があるぞ》

「なに?」

《それはだな、うむ……ユウと接吻をするのだ》

……は?

へ?

はあああああああああ!!??


ちょっと待て!
そこまでやるか。
フェルミ!
そこまでやりますか!?

でも、そこまで言えば清奈は不振に思うはずだ。
まさか、するはずない。
第一、清奈が僕にキスしろと言われ「はいそうですか」と言うわけない、よな?

「……それ本当の話?」

ほら、な?
清奈が疑ってるじゃないか。当然だよな?

《ユウは【肉体的には】既に治癒しているが、【精神的には】治癒していない。そして、これは我が昔聞いたことなのだが、異性の間限定で、タイムトラベラーの間で接吻をすると、魔力の循環が早まり、回復するという話を聞いたことがある》

ダウト!!

って叫ぶぞフェルミ。
絶対嘘だろうが、しかもフェルミ、なんだか循環がどうのこうのってもっともらしい理由つけてやがるしな!!

え?

でも待てよ。

清奈と、キス……?






冷静に考えてみると、
悪くないかもな。
でも、さくらちゃんに何か悪いよな〜……。

「悠と……キス……」

もう一度清奈を見る。

《早くしないと、悠は自分の魔力で精神が押し潰されるぞ》

「分かってるわよ、でも……」

《セイナ》

「こんな……そんな。私……そんなはしたないこと……」

清奈は、否定も肯定もしていない。
少し頬を赤らめ、本当に、こっちが申し訳なく思うぐらい、困った顔をしている。

「ちょっと待ってよ……フェルミ。心の準備がまだ……」

ん?

信じているようで。
ということは、このままいたら。

《まあ、理解は出きる。だがな、こればかりは逃げられんぞ》

「……」

清奈の顔が下にうつむく。その顔が照れているのは、横になっている僕にしか分からないだろう。


清奈は、

「す〜……は〜……」

深呼吸した。

「……すれば、目が覚めるのね?」

《ああ》

「嘘じゃないわね?」

《すれば答えが自ずと分かろう》

それは、僕がこの先の展開を決めていい、ということか?

このままでも構わないし、途中で目が覚めてもいいわけだ。

「悠」

僕の頭を持ち上げる清奈。

「呑気に寝て、いい気なものね。目が覚めたら……きっちり責任とって貰うんだから!」

怒っているように聞こえるが、顔は緊張で少しこわばっている。
清奈の顔が近くではっきりと見える。

「……悠」

最後に一言。
小さくぼそっと言った。

清奈は覚悟を決めたらしく、目を瞑り、ゆっくりと僕の顔に近づく……。







むに


「……え?」

小心者な僕は、まさにあと数センチといった所で、急に罪悪感に駆られ、結局止めることにした。

「へ……えへへへへ……」

妙に下品な笑い声を漏らしながら、近づいてきた清奈の頬を軽く引っ張る。

「本気に……しちゃった?」

それを言った瞬間、
清奈は全てを理解したらしく、

「きゃあああ!?」

バッとその場から離れる。
「……お前……!」

「いや、本当にごめん。ちょっと驚かそうと思ったらフェルミがキ――」


あれ?


顔面に強い衝撃。
そのまま僕は空中遊泳をして地面にぶつかる。

思いっきり顔を蹴られたらしい。

「はあ……はあ……」

清奈が息をきらして僕のすぐ側に立つ。

「清奈さん、ちょっとタンマ……!」

「バカ! バカバカバカ!! 悠のバカぁ!!」

清奈さん!!
竹刀でバチバチ叩かないでください!
死ぬから、ガチで逝っちまうから!

「でも、嬉しかったよ」

「何が……!」

「いや、僕の為にキスをしようとしてくれて。心配してくれたんだなあって」



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