〜第3章〜 清奈


[36]2006年8月1日 夜7時45分


自分でも凄いと思う。
これほどの敵を前にし、僕は恐れていない。
理由は分からない。でも現に「これを倒してやる」と思っている。
僕の中の血が、そうするよう促しているのか。
これが、最初にパルスが言った「素質」というやつなのだろうか?

「あん? ガキ、まだ動けたのか。腰抜かしてそのうち逃げるかくたばるかのどっちかだと思っていたんだがなあ……」

サーベルは地上から約10m上に浮かび、ちょうど胸の辺りにいる。だからその人形の背は15m程。

《あれは奴の武具による力だ。あの爪を破壊しなければ……》

フェルミの声を聞き、清奈がうなづく。

「ええ。狙うのは本体のみね」

白くてとげとげしく、そして太い腕を振り上げる。両腕が、僕と清奈それぞれの位置を捕えた。握りこぶしを作り、しゃがみこんで乱暴に頭上へと振り下ろす!!

幸い相手は非常に大きいため、振り下ろす前に左へ転がった。

清奈も右にステップを踏んで避ける。
コンクリートの地面が割れる!!

ちょうど清奈と横並びになった。

「……今からでも間に合う。奴は巨大化したせいで動きは極端に遅い。早くこの場から脱出しなさい!」

清奈が言う。
その命令を、僕は……背く。
「……戦う」

それだけ言った。
なるべく、清奈に僕の意思が伝わるように、精一杯の力を込めて言う。

「馬鹿。お前がどうにかできる相手じゃないでしょ!!」

「どうにかできない。でも【どうにかする】」

「……!」

清奈はそのまま黙った。
しかし、そのまま沈黙が訪れる筈もなく、人形が今度は手を広げて叩く!!

一瞬で黒い影が差し込み、頭上から大きく広げた手が迫る!!

ボンッ!!

「ま……またかよっ! いでっ!!」

また清奈が僕を強く蹴る。右にゴロゴロ転がって倒れる僕。
そのせいで僕は人形の攻撃から免れる。
しかし清奈はまだ人形の攻撃範囲の中だ……!

「清奈!!」

僕は大声で叫ぶ。
清奈が……清奈!!

清奈の体の大きさを遥かに越えるその手。

「潰れちまえ!!」

もうすぐ手が地を叩き付けるギリギリの所で

フェルミの柄を握り、上に一閃を入れる。

「ちきしょぉっ!!」

清奈は瞬間で一歩後ろに交代し、薬指を斬って空間を作ったのだ。
中指と小指の間の隙間で叩き付ける攻撃を清奈はやりすごす。

更に清奈は前方に高くジャンプ。
人形の手首の辺りでジャンプの最高地点を迎え、下を向き右から左に手首を斬る。

「このやろう!!」

清奈は人形の腕に、ちょうど観覧車の座席が出っ張っている平坦な地に着地する。

観覧車の座席はかなりの数がある。その着地して安全な部分に飛びうつるように、人形の右腕を駆け上がる。

あっというまに清奈は人形の二の腕に到達。

「落ちろ! 落ちろ! 落ちやがれクズがぁ!!」

人形が、清奈のいる右腕をぐるぐる振り回す。
それをする前に、すばやく清奈は左腕に、一直線に飛びうつる。清奈が風を切るように、一瞬で反対側に移動した後、

清奈は「本体」のある心臓部分を見る。

「……本体にフェルミを突き刺して、内部にありったけの電気を流し込めば……」

《この怪物を止めるにはそれしか方法はあるまい》

「……行く!!」

清奈が高く飛ぶ。
人間では有り得ない跳躍力で、まっすぐ清奈はサーベルがいるであろう心臓部に向かって突き進む!!

「…あああああぁ!」
清奈が声を出してフェルミの力を開放する。
フェルミが、雷の力を更に増大させる。そして清奈がそのフェルミの剣先を、鉄骨の僅かな隙間に向け、そこに……

刺突する。


その瞬間。瞬間だけ
激しく動いていた人形が、一時停止ボタンを押したようにピタッと止まる。音も突然静まりかえる。
時の流れが一瞬だけ止まったかのよう。

その静寂の
世界を

「フォルトレス……」

雄々しく、勇ましく、美しい一人の戦乙女の声が包む。

「ライトニング!!」

人形の心臓部分から真っ白の閃光が煌めいたかと思うと、火花が散る音があちこちで起こる。

「ぐ、ぐぎ、ぎぎぎぎぎぎあ!!」

鉄は絶縁体では無い。
銅と同じ金属。
だから清奈が流し込んだ電気は一瞬で全身にまわる。
「ぐ! が!!」

人形の全身が電気を帯びる。たちまち

「ぎぎぎぎぎ!! ぐぎゃあああああああっ!!」

鉄骨の檻人形が形を失い崩れていく。

清奈はフェルミを引き抜き、そのまま地面に着地。
後ろに下がり、僕のすぐ側につく。

勝った、

と思った。







再び大きな音をたてて鉄骨が崩れ去り、人形は只のガラクタの山に戻った。

「終わった……のか?」

僕が清奈に聞く。

「……あ……」

「え?」
僕が言う。
その時だった。


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