〜第3章〜 清奈


[35]2006年8月1日 夜7時42分


「命、頂くゼ!」

「来い! サーベル!!」
清奈が前方左に踏み込み横に現れた爪を弾く。
もういちど言うが、サーベルというあのネブラは動いていない。
ただ、「爪でひっかく」という現象を起こすだけに止まっている。

ひっかくという結果に基づいて、爪を振るっている。
さらに分かりやすく言おう。

銃は、トリガーを引くことで、相手を撃つ。
刀は、振り下ろすことで、相手を斬る。

ところが、サーベルは当たり前なその流れを逆行している。

相手を撃つことで、トリガーを引き
相手を斬ることで、刀を振り下ろす。
同様に、
相手をひっかくことで、爪をたてる。

これは、戦う相手にとって驚異以外の何物でもない。

当たり前だが、清奈やハレンも相手の攻撃する前の一瞬の動きを見て次の一手を考える。
サーベルは攻撃する前に微々とも動かない。結果に基づいて手を動かしているのだから。
清奈もじわじわサーベルとの距離を詰めているが、5メートルより前に踏み込めないでいる。

「くぅ……!!」

清奈を右から左に裂く爪痕が現れる。ちょうど右にステップを踏んでいた清奈は、それをフェルミで受け止める。
更に下から上に流れる攻撃。
清奈はまだ体勢を整えきれていない。サーベルは、清奈が見せた僅かな隙も逃さない!

フェルミは先程の攻撃を受け止めたせいで、弾くのには間に合わない。

清奈は一瞬だけフェルミから手を放し、体を後ろに反らして、下からの攻撃を回避する。
すぐにフェルミをキャッチして、上に飛びあがる。

飛び上がってもなお攻撃は止まない。
サーベルは地面にいながら、空中の清奈に攻撃し続けている。

「空中に逃げるのが得策ってか?」

サーベルは、
僕の方を向いて
まずい!
一直線に突っ込んできた!!

《撃って!!》

すぐさまパルスの銃を向けて引金を引いた。

腕に強い振動。銃口から飛び出した弾丸がサーベルの額に当たる。
本来ならヘッドショット、生身の人間なら即死確定だが……ネブラはネブラ。

サーベルの額に穴が空いても、少しのけぞっただけで、すぐに残りの距離を詰める!!

のけぞった時に見せた、サーベルの
殺しを堪能できる悦楽の顔。

「まずてめえから死ねやああぁぁっ!!」

僕とサーベルの距離は、もはや3メートルあるかないか、

殺られる!!

情けなくも目を瞑る僕。
次の瞬間にくるであろう
痛みを堪える為に。

その次の瞬間には
痛みではなく、横に強く吹っ飛ばされたような感覚。
「……ぐ!!」

僕は遥か右に飛ばされ地面をゴロゴロ転がる。
目を開けると清奈が口を食いしばってサーベルの爪を受け止めている。


「額にパルスの魔力を受けても平気とはね。どういうネブラなわけ? お前」

フェルミと、サーベルの爪が交わりあう。そのままサーベルは力まかせにフェルミを押し返す。

清奈が空中に吹っ飛ぶが、後方に宙返りして体勢を整えて着地する。

「余裕ぶるのかてめえ……? もうすぐ振りかかるてめえの未来は分からねえのかよ?」

サーベルの手から鋭い針が5本伸びる。爪が更に伸びたからだ。

「【死ぬ】以外の何者も無え。千切(ちぎ)れて……消えろ」

異様な空気に包まれる。
全てが紅かった世界が、
夕闇、堕ち、紫苑の色へ。赤紫色に変化する。
見るだけで吐き気がする。止まらない不快感。早くどこかに消えたい衝動。早くこの世界からいなくなりたい願望。
どす黒い静脈血で染まった世界。

変化はそれだけでは無い。サーベルが空中に浮く。
まだ倒れて動けない。(下半身がビリビリと麻痺している)

そして
地上から約10メートルほど宙に浮いた所で、
瓦礫の山が再び踊り出す。観覧車の残骸がサーベルの周りに収束、そして変形。
人のような姿になる。
鉄骨、ガラス片、座席。
それら有像無像を、寄せ集めて形づくる。

よくあるパニック映画の怪獣のような巨大な「人形」になるのに、あまり時間がかからなかった。

サーベルはその人形の中心にいる。攻撃が届くはずもない。

「驚いたか? これが、俺様がつけているこの爪……【パペットショー】の真の力だ。どうだ? これならてめえ達を潰すぐらい訳は無い……ギャハハハハハハ!!」


動かなきゃ。
清奈が窮地に陥っていることは簡単に分かる。
足の麻痺なんかで見てるだけなんかにはなりたくない。

気力だ。
自分が思っていることをただ実行する。
出来ないはずがない。
不可能なことではない。
足に力を入れる。

動く。
さっきの足の麻痺は僕の弱い心が生み出したもの。
僕は弱いことを知っている。

自分は弱いことを知っている人間だ!

手に力を込め、地に足をつける。体を起こす。
人形……
僕が思ったことは唯一これだけ。

清奈と

これを倒すってこと、ただそれだけ!!

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